【糖尿病の説明】

治験担当モニターに必要な知識
治験担当モニターのための糖尿病の説明





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●そもそも糖尿病とは?
糖尿病の概略を説明せよ(1)


糖尿病はインスリン分泌障害および種々の程度の末梢インスリン抵抗性で,高血糖につながる。

初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿である。

晩期合併症は,血管疾患,末梢神経障害,および易感染性である。

診断は血糖測定によって行う。

治療は食事,運動,および血糖値を低下させる薬物で行い,薬物にはインスリンおよび経口血糖降下薬が含まれる。

予後は血糖コントロールの程度によって様々である。



糖尿病(DM)にはT型およびU型の2種があり,特徴の組み合わせによって鑑別される。

発症年齢(若年または成人)または治療の種類(インスリン依存性または非インスリン依存性)を表す用語はもはや正確ではなく,なぜならば年齢群および治療は病型間で重複するからである。




耐糖能異常(耐糖能障害または空腹時血糖障害,糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表を参照)は,正常糖代謝と,加齢に伴って頻度の高まる糖尿病との中間にある,恐らくは過渡期の状態である。

これは糖尿病の有意な危険因子であり,糖尿病発症の何年も前から存在することがある。

心血管疾患のリスク上昇と関連するが,典型的な糖尿病性微小血管合併症は一般に生じない。




T型:

T型糖尿病(従来は若年発症型またはインスリン依存型と呼ばれた)では,自己免疫性の膵β細胞破壊が原因でインスリン産生が欠如しており,この破壊は恐らく遺伝的に感受性の高い集団の環境暴露によって誘発される。

破壊は数カ月または数年かけて無症状に進行し,インスリン濃度がもはや血糖値の調節に十分ではなくなる時点までβ細胞量は減少する。

T型糖尿病は一般に小児期または思春期に発症し,最近までは30歳以前に診断される最も一般的な病型であったが,成人でも発症する(潜在性自己免疫性成人糖尿病)。

T型は糖尿病症例全体の10%未満を占める。


自己免疫性β細胞破壊の病因には,感受性遺伝子,自己抗原,および環境因子の相互作用が関与するが,これは完全には理解されていない。

感受性遺伝子には,主要組織適合複合体(MHC)内の遺伝子―特にHLA-DR3,DQB1*0201,およびHLA-DR4,DQB1*0302が含まれ,これらは90%を上回るT型糖尿病患者に認められる―およびMHC以外の遺伝子が含まれており,MHC以外の遺伝子はインスリンの産生およびプロセッシングを調節し,MHC遺伝子と呼応して糖尿病のリスクを生むと考えられる。

感受性遺伝子は一部の集団では他の集団よりも一般的にみられ,一部の民族(スカンジナビア人,サルデーニャ人)におけるT型糖尿病の罹患率の高さを説明する。



自己抗原にはグルタミン酸脱炭酸酵素,インスリン,インスリノーマ関連蛋白,およびβ細胞中の他の蛋白が含まれる。

これらの蛋白はβ細胞の正常な代謝回転またはβ細胞傷害(例,感染による)の際に暴露または放出され,細胞性免疫反応を活性化してβ細胞の破壊(膵島炎)につながると考えられている。

グルカゴン分泌α細胞は障害されないままである。

自己抗原に対する抗体は血清中に検出され,β細胞破壊に対する反応(原因ではなく)であると考えられる。



数種のウイルス(コクサッキーウイルス,風疹ウイルス,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,およびレトロウイルスを含む)はT型糖尿病の発症と関連づけられている。

ウイルスはβ細胞に直接感染してそれを破壊するか,または自己抗原への暴露,自己反応性リンパ球の活性化,免疫反応を刺激する自己抗原の分子配列の模倣(分子擬態),もしくは他の機序によって間接的にβ細胞破壊を引き起こす可能性がある。



食事も要因である。

乳児の乳製品(特に牛乳および乳蛋白βカゼイン)への暴露,飲水中の高濃度硝酸塩,およびビタミンD摂取不足はT型糖尿病のリスク上昇と関連づけられている。

早期(4カ月未満)または後期(7カ月以降)にグルテンおよび穀物に暴露すると膵島細胞自己抗体の産生が増加する。

これらが関連する機序は不明である。




U型:

U型糖尿病(従来は成人発症型または非インスリン依存型と呼ばれた)では,インスリン分泌が不十分である。

特に病初期には,インスリン濃度はしばしばきわめて高くなるが,末梢インスリン抵抗性および肝での糖新生増加が原因で,このインスリン濃度では血糖値の正常化には不十分となる。

インスリン産生はその後減少し,高血糖をさらに悪化させる。

U型糖尿病は一般に成人で生じ,加齢とともにより頻度が高くなる。

若年成人と比較して,高齢者では食後,特に大量の炭水化物を摂取後に血糖値がより高値に達し基準範囲に戻るには時間がかかるが,この一部は内臓脂肪/腹部脂肪の蓄積増加および筋肉量減少によるものである。


小児肥満が蔓延するにつれて小児におけるU型糖尿病の頻度もますます高まってきている:小児の新規発症糖尿病の40〜50%が最近ではU型である。

糖尿病を有する成人の90%以上がU型である。

U型糖尿病の有病率が民族内(特にアメリカインディアン,ヒスパニック,アジア人)および罹患者の親族において高いことから立証されるように,明らかな遺伝的決定因子が存在する。

最も一般的なU型糖尿病の原因遺伝子は同定されていない。


病因は複雑で,完全には理解されていない。

インスリン分泌がインスリン抵抗性を代償できなくなると高血糖が生じる。

インスリン抵抗性はU型糖尿病の患者やそのリスクを有する者に特徴的であるが,β細胞機能不全およびインスリン分泌障害の証拠も存在し,これにはブドウ糖静注に反応して生じる第1相 インスリン 分泌の障害,正常なパルス状インスリン分泌の喪失,インスリンプロセッシング障害を示唆するプロインスリン分泌増加,膵島アミロイドポリペプチド(正常ではインスリンとともに分泌される蛋白)の蓄積が含まれる。

高血糖はβ細胞の脱感作および/またはβ細胞の機能不全を引き起こすので,高血糖自体がインスリン分泌を障害することがある(糖毒性)。

インスリン抵抗性の存在下では,これらの変化は典型的には発生までに数年かかる。



肥満および体重増加はU型糖尿病におけるインスリン抵抗性の重要な決定因子である。

肥満や体重増加には遺伝的決定因子も存在するが,食事,運動,生活様式も反映される。

脂肪組織は,インスリン刺激性のブドウ糖輸送および筋肉でのグリコーゲン合成酵素活性を障害する遊離脂肪酸の血漿濃度を増加させる。

脂肪組織は内分泌器官として機能するとも考えられ,糖代謝に有利(アディポネクチン)または不利(腫瘍壊死因子α,IL-6,レプチン,レジスチン)な影響を及ぼす複数の因子(アディポサイトカイン)を放出する。

子宮内での成長抑制および低出生体重もその後の生涯におけるインスリン抵抗性と関連づけられており,出生前の環境が糖代謝に及ぼす影響を反映している可能性がある。
●糖尿病の症状と徴候
糖尿病の概略を説明せよ(2)


●症状と徴候

糖尿病の最も一般的な症状は高血糖症状である:糖尿によって引き起こされた浸透圧利尿が,起立性低血圧や脱水へと進行しうる頻尿,多尿,多飲をもたらす。

重度の脱水は脱力,疲労,および精神状態の変化を引き起こす。

症状は血糖値の変動につれて出現したり消失したりする。

過食は高血糖の随伴症状であるが,典型的には患者の一番の関心事ではない。


高血糖は体重減少,悪心・嘔吐,および視力障害を引き起こす恐れもあり,細菌または真菌に感染しやすくなる。


T型糖尿病患者は典型的には症候性の高血糖を呈し,ときに糖尿病性ケトアシドーシス(DKA,糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病性ケトアシドーシスを参照 )もみられる。

一部の患者は,糖尿病の急性発症に続いて蜜月相(血糖値が基準範囲近くとなる長いが一過性の時期)を経験し,これはインスリン分泌の部分的な回復によるものである。


U型糖尿病患者は症候性の高血糖を呈することもあるが,しばしば無症状であり,患者の病状はルーチンの検査でのみ検出される。

初期症状が糖尿病合併症(後述参照)の症状である患者もおり,糖尿病がしばらく持続していたことが示唆される。

一部の患者では高浸透圧性昏睡が初期にみられ,これは特にストレス下や,コルチコステロイドなどの薬物によって糖代謝がさらに障害されたときに生じる。





●合併症

長年にわたるコントロール不良の高血糖は,主として小血管(細小血管性)および/または大血管(大血管性)に影響を及ぼす複数の合併症につながる。

血管障害の発症機序には,血清蛋白および組織蛋白の糖付加(糖化最終産物形成を伴う),スーパーオキシド産生,シグナル分子プロテインキナーゼCの活性化(血管透過性を亢進させ内皮機能不全を引き起こす),ヘキソサミン生合成経路およびポリオール経路の促進(組織内でのソルビトール蓄積につながる),高血圧症および異常脂質血症(糖尿病に随伴して一般的にみられる),動脈微小血栓,ならびに高血糖および高インスリン血症の炎症誘発効果や血栓誘発効果(血管の自己調節を障害する)がある。

免疫機能不全はもう1つの主要合併症であり,高血糖が細胞性免疫に直接及ぼす影響に起因する。

頻度が高く破壊的な糖尿病の3症状の基礎には細小血管障害がある:3症状とは網膜症,腎症,および神経障害である。

細小血管障害は皮膚の治癒を著しく障害するので,皮膚の完全性がわずかに破壊されただけでも深い潰瘍が生じて容易に感染を起こしうる。

徹底した血糖コントロールによってこれらの合併症の多くを予防できるが,一度生じてしまった合併症は回復しないこともある。





●診断

糖尿病は典型的な症状および徴候によって示され,血糖測定によって確定される。

8〜12時間絶食後の測定(空腹時血糖[FPG])または高濃度ブドウ糖液摂取2時間後の測定(経口ブドウ糖負荷試験[OGTT])が最も優れている(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表参照)。

OGTTが糖尿病および耐糖能障害を診断する感度はFPGよりも高いが,高価で簡便性に乏しく,再現性も低い。

したがって,妊娠糖尿病の診断(妊娠中の合併症: 妊娠中の糖尿病を参照 )および研究目的以外でルーチンに用いられることはまれである。



臨床では,糖尿病または空腹時血糖調節障害は,血糖または糖化ヘモグロビン(HbA1c)の随時測定を用いてしばしば診断される。

随時血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)を上回れば診断がつくが,この値は採血前の食事に影響されることがあり,検査を繰り返して確認しなければならない;糖尿病症状の存在下では2回の検査は不要となる場合もある。

HbA1cの測定結果は,測定前2〜3カ月の血糖値を反映する。

6.5%を上回る値は血糖の異常高値を示す。

しかし,測定法および基準範囲はいまだに標準化されておらず,測定値は偽高値または偽低値となる可能性もある(糖尿病と炭水化物代謝異常症: モニタリングを参照 )。

これらの理由から,HbA1cはFPGやOGTT試験ほど糖尿病の診断において信頼性が高いとは今のところみなされておらず,主に糖尿病コントロールのモニタリングに使用すべきである。



尿糖測定は以前は一般的に使用されていたが,感度も特異度も高くないので,診断やモニタリングにはもはや使用されていない。



T型糖尿病の高リスク者(例,T型糖尿病患者の同胞および子)では,膵島細胞抗体または抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体の有無を検査する場合があり,これらの抗体の発現は臨床的な疾患の発症に先立つ。

しかし,高リスク者に対する予防策として立証されたものはなく,したがってこのようなスクリーニングは通常は研究の場に限られている。



U型糖尿病の危険因子は,年齢45歳以上,肥満,座っていることの多い生活様式,糖尿病の家族歴,血糖調節障害の既往,妊娠糖尿病または4.1kgを上回る産児,高血圧症または異常脂質血症の既往,多嚢胞性卵巣症候群,黒人,ヒスパニック,アメリカインディアンである。

過体重患者(体格指数が25kg/m2以上)におけるインスリン抵抗性のリスクは,血清トリグリセリドが130mg/dL(1.47mmol/L)以上,トリグリセリド/高密度リポ蛋白(HDL)比が3.0(1.8)以上,およびインスリン値が108pmol/L以上になると上昇する。

これらの患者では,血糖値が基準範囲内にある間は少なくとも3年毎に1回,空腹時血糖値異常が明らかにされたならば少なくとも年1回は空腹時血糖値を測定して,糖尿病のスクリーニングを行うべきである(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表を参照)。



全てのT型糖尿病患者では診断の5年後から糖尿病合併症のスクリーニングを開始すべきであり,U型糖尿病患者では診断時からスクリーニングを開始する。

圧覚,振動覚,痛覚,または温度覚の障害について少なくとも年に1回は患者の足を検査すべきであり,これらは末梢神経障害の特徴である。

圧覚はモノフィラメントの触覚計を用いることで最もうまく検査できる(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病患者の足のスクリーニング。図 1: イラストを参照)。

足全体,特に中足骨頭下の皮膚に,ひび割れや,潰瘍形成,壊疽,爪真菌感染,脈拍減弱,脱毛などの虚血徴候がないかを調べる。眼底検査は眼科医が実施すべきである;スクリーニングの間隔については議論があるが,網膜症が確定している患者で年1回から,少なくとも1回の検査で網膜症が認められなかった患者で3年毎までにわたる。

蛋白尿または微量アルブミン尿を検出するために年1回の随時尿検査または24時間尿検査が適応となり,血清クレアチニンを測定して腎機能を評価すべきである。

心疾患のリスクをふまえて,ベースライン時の心電図が重要とみなされることが多い。

脂質プロファイルを少なくとも年1回,異常があるときにはそれよりも頻繁に検査すべきである。


●糖尿病の治療(1)
糖尿病の概略を説明せよ(3)


●治療

治療は高血糖をコントロールして症状を改善し合併症を予防すると同時に,低血糖の出現を最小限にとどめることである。

治療目標は,日中は80〜120mg/dL(4.4〜6.7mmol/L),就寝前は100〜140mg/dL(5.6〜7.8mmol/L)に血糖値を維持すること(家庭での測定によって決定する,糖尿病と炭水化物代謝異常症: モニタリングを参照 ),およびHbA1c値を7%未満に維持することである。

これらの目標は,高齢者,余命の短い患者,低血糖発作,特に無自覚低血糖を繰り返す患者,低血糖症状の存在を伝えられない患者(例,幼児)など厳格な血糖コントロールが勧められない患者では調整されることもある。



全ての患者で重要となる要素は,患者教育,食事指導,運動指導,および血糖コントロールのモニタリングである。

T型糖尿病の全患者はインスリンを必要とする。

血糖値が軽度上昇したU型糖尿病患者には食事療法および運動療法を試験的に処方すべきであり,生活様式の変更で不十分であれば続いて単一の経口血糖降下薬を処方し,必要に応じて経口薬を追加して(併用療法),2剤以上を使用しても推奨目標の達成に有効でないときにはインスリンを処方する。


診断時により顕著な血糖上昇がみられるU型糖尿病患者には,典型的には生活様式の変更および経口血糖降下薬を同時に処方する。

妊娠中のU型糖尿病患者,および非ケトン性高浸透圧症候群(NKHS)またはDKAなどの急性代謝代償不全を呈する患者では,インスリンが初期療法として適用となる。


血糖調節障害患者は,糖尿病発症のリスク,および糖尿病予防を目的とした生活様式の変更に焦点を当てたカウンセリングを受けるべきである。

これらの患者では,糖尿病症状または血糖上昇がないかを慎重に監視すべきである;理想的な経過観察間隔は明らかにされていないが,年1回または2回の検査が恐らくは適切であろう。



糖尿病の原因,食事,運動,薬物,手指での自己血糖測定,ならびに低血糖,高血糖,および糖尿病合併症の症状や徴候についての患者教育は,治療を最適化するために不可欠である。

大半のT型糖尿病患者には,インスリン用量の調節方法を指導する。

教育は毎回の診察時および入院時に強化すべきである。

一般には糖尿病専門看護師および栄養士によって実施される正規の糖尿病教育プログラムは,しばしばきわめて有効となる。



個人の状況に合わせた食事は患者が血糖値の変動を調節する際に有用となる場合があり,U型糖尿病患者では体重を減らす上でも役立つ可能性がある。

一般に,全ての糖尿病患者は飽和脂肪やコレステロールが少なく,中等量の炭水化物(望ましくは食物繊維含有量の多い全粒粉由来の炭水化物)を含む食事について教育を受ける必要がある。

食物中の蛋白および脂肪は熱量摂取(したがって体重の増減)に関与するが,唯一炭水化物が血糖値に直接的な影響を及ぼす。

炭水化物が少なく脂質の多い食事は一部の患者で血糖コントロールを改善するが,長期の安全性については不明である。



T型糖尿病患者は,インスリンの用量と炭水化物の摂取量とを釣り合わせて生理的なインスリン補充に役立てるために,カーボカウントまたは炭水化物交換システムを使用すべきである。

食事中の炭水化物量の“カウント”は,食前のインスリン用量の算出に使用する。

一般に患者は,食事中の炭水化物15gにつき1単位の超速効型インスリンを必要とする。

このアプローチには詳細な患者教育が必要であり,経験豊富な糖尿病専門栄養士が指導を行ったときに最も成功しやすい。


一部の専門家は,glycemic indexを使用して急速に代謝される炭水化物と緩徐に代謝される炭水化物との境界を明らかにすることを勧めるが,他の専門家はこの指数にはほとんど効果がないと考えている。

U型糖尿病患者は熱量を制限し,規則正しく食事をし,食物繊維の摂取を増やし,精製炭水化物および飽和脂肪の摂取を減らすべきである。

一部の専門家は,早期腎症の進展を予防するために食事蛋白を0.8g/kg/日以下に制限することも推奨している(糸球体疾患: 糖尿病性腎症を参照 )。

栄養指導は医師の診察を補完すべきであり,患者および患者の食事を用意する者のいずれもが指導に参加すべきである。

運動には,どのようなレベルであれ患者が耐容できる程度まで身体活動を漸増させることを含むべきである。

一部の専門家は,減量および血管疾患予防には等尺性運動よりも有酸素運動が優れていると考えるが,筋力トレーニングも血糖コントロールを改善する場合があり,あらゆる種類の運動は有益である。

運動中に低血糖症状を経験する患者には,血糖値を測定し,必要に応じて炭水化物を摂取するかインスリンの用量を減らし,運動直前の血糖値が基準範囲をわずかに上回るように指導する。

激しい運動中に生じる低血糖では,運動中に炭水化物,典型的には5〜15gの蔗糖または他の単糖の摂取が必要となることもある。


心血管障害が診断されている,または疑われる患者では,運動プログラム開始前に運動負荷試験を実施すると有益な場合があり,神経障害や網膜症などの糖尿病合併症を有する患者では活動目標を下げる必要が生じることがある。

モニタリング: 糖尿病コントロールは血糖,HbA1C,またはフルクトサミンの値を用いて監視できる。

指先の血液,試験紙,および血糖測定器を用いた自己全血血糖モニタリングが最も重要である。

これは患者が食事摂取量や インスリン を調節し,医師が薬物の投与時間や用量の調節を勧める際に役立てる。

多数の異なるモニタリング装置が利用可能である。

ほぼ全ての装置が,試験紙および皮膚を刺して検体を採取する手段を必要とする;大半には対照溶液が付属しており,装置が適切に較正されているかを確認するために定期的にこれを使用すべきである。

装置の選択は,結果が出るまでの時間(通常は5〜30秒),表示パネルの大きさ(大スクリーンは視力の低下した患者に有益となりうる),較正の必要性など,装置の特色に関する患者の嗜好に基づいて通常は行う。

指先よりも疼痛の少ない場所(手掌,前腕,上腕,腹部,大腿)での測定が可能な測定器も市販されている。



新型の装置は血糖を経皮的に測定するが,これらの使用には皮膚刺激および不安定な測定による限界が生じている;より優れた技術によって,このような装置によるほぼ持続的な測定が間もなく可能になるであろう。



血糖コントロールの不良な患者,新しい薬物が処方された患者,または既に使用中の薬物の用量が変更になった患者は,自己血糖測定を1日1回(通常は早朝空腹時)〜5回以上行うように求められる場合があり,これは患者の必要性や能力,治療計画の複雑さに依存する。

大半のT型糖尿病患者は,少なくとも1日4回の測定を行うことによって恩恵を受ける。


HbA1C値は,先行する2?3カ月間の血糖値を反映し,したがって受診と受診との間のコントロールを評価する。

HbA1C値はT型患者では3カ月毎に,血糖値が安定していると考えられるU型患者では少なくとも年1回(コントロールが不明確なときにはより頻回に)評価すべきである。

家庭検査キットは,検査説明書に正確に従える患者に有用となる。

HbA1C値によって示唆されるコントロールは,ときに毎日の血糖測定によって示唆されるコントロールと異なるように見受けられ,これは高値や基準範囲内の値が誤って示されるためである。

偽高値は,腎不全(尿素が定量を妨げる),赤血球代謝の低下(鉄欠乏性貧血,葉酸欠乏性貧血,またはビタミンB12欠乏性貧血でみられるような),高用量アスピリン,血中アルコール濃度高値などで生じうる。

溶血性貧血および異常ヘモグロビン症(例,HbS,HbC)などでみられる赤血球代謝の亢進,または欠乏性貧血の治療中には,基準範囲内の値が誤って生じる。



フルクトサミンは,大半は糖化アルブミンであるがその他の糖化蛋白からもなり,過去1〜2週間の血糖コントロールを反映する。

フルクトサミンのモニタリングは,糖尿病の集中治療中の患者や,変異ヘモグロビンを有する患者,または赤血球代謝の亢進している患者(HbA1Cの誤測定が生じる)に用いられることもあるが,主に研究の場で使用される。


尿糖のモニタリングは高血糖の大まかな指標となり,血糖モニタリングが不可能なときにのみ推奨される。

一方,嘔気,嘔吐,腹痛,発熱,感冒様症状,インフルエンザ様症状,自己血糖測定上で異常に持続する高血糖(>250〜300mg/dL)など,ケトアシドーシスの症状,徴候,または誘引を認めるT型糖尿病患者では尿ケトン体の自己測定が推奨される。



インスリン: インスリンは,インスリンがなくてはケトアシドーシスを起こすT型糖尿病の全患者で必要となり,多くのU型患者の管理にも有用である。

インスリン補充は,2種のインスリンを使用して基礎および食事時の必要量をまかなうことで,理想的にはβ細胞機能を再現すべきである(生理的補充);これには,食事,運動,およびインスリンの投与時間や用量に対する細心の注意が必要となる。

現在では大半のインスリン製剤は組換えヒトインスリンであり,インスリンが動物から抽出されていた頃には一般的であった薬物に対するアレルギー反応は実質的になくなっている。

レギュラーインスリン静注がまれに使用されることを除き,インスリンは皮下投与される;ヒトインスリン分子を修飾して皮下吸収速度を変化させることで作られた多数のアナログが市販されている。

インスリンの種類は,一般的に作用の発現時間および持続時間によって分類される。

しかし,様々な因子(例,注射部位,注射技術,皮下脂肪量,注射部位の血流)に依存して,これらのパラメーターは患者内および患者間で異なる。
●糖尿病の治療(2)
糖尿病の概略を説明せよ(4)


●治療(2)


■T型糖尿病に対するインスリン投与法:

T型糖尿病に対する投与法は,1日2回の“混合型分割”法(例,超速効型インスリンと中間型インスリンの用量を分割)から,1日に複数回の注射を行うより生理的な“基礎-ボーラス”法(例,単回投与する固定[基礎]量の持続型インスリン,および食後[ボーラス]投与する様々な量の超速効型インスリン)に及ぶ。

強化療法は1日4回以上の血糖測定および1日3回以上のインスリン注射またはインスリン持続注入と定義され,従来の治療(血糖測定を併用または非併用で1日1〜2回インスリンを注射)よりも糖尿病性網膜症,腎症,神経障害を予防する効果が高い。

しかし,強化療法では低血糖および体重増加がより頻繁に起こりやすく,自己管理により積極的な役割を果たすことができ,それを望む患者においてのみ一般に有効である。



一般に,大半のT型糖尿病患者は0.2〜0.8単位/kg/日の総インスリン量から開始し,肥満患者はさらに高用量を必要とする場合がある。

生理的補充は,1日のインスリン量の40〜60%を中間型製剤または持続型製剤として投与して基礎必要量をまかない,残りを超速効型製剤または速効型製剤として投与して食後の必要量の増加を補う。

この方法は,超速効型インスリンまたは速効型インスリンの用量が食前血糖値,予定される食事内容,および血糖モニタリング結果を考慮したスライディングスケールによって決定されるときに最も有効となる;目標血糖値を50mg/dL(2.7mmol/L)上回るまたは下回る毎に,用量を1〜2単位調節する。

患者は食事を抜いたり食事時間をずらしても良好な血糖値を維持できるので,この生理的投与法は生活様式の自由度を高める。

しかし,他の投与法よりも有効性が高いと立証されている特異的なインスリン投与法はなく,これらの提案は治療開始時を対象とするものである;したがって,投与法の選択は一般に生理反応および患者や医師の嗜好に依存する。



■U型糖尿病に対するインスリン投与法:

U型糖尿病に対する投与法も多様である。

多くの患者は生活様式の変更または経口薬で十分にコントロールされるが,経口薬2剤以上を用いても血糖コントロールが不十分なときはインスリンを加えるべきである;妊娠女性では経口薬をインスリンに切り替えるべきである。

併用療法の最も強固な理論的根拠は,インスリンと経口ビグアナイド薬および インスリン 抵抗性改善薬との併用に関するものである。

投与法は,持続型インスリンまたは中間型インスリンの1日1回注射(通常は就寝時)からT型糖尿病患者に用いられる頻回注射法まで多様である。

一般に,最も簡便で有効な投与法が選択される。

インスリン抵抗性が存在するので,一部のU型糖尿病患者はきわめて大量のインスリンを必要とする(>2単位/kg/日)。

一般的な合併症は体重増加であり,この大部分は尿中へのブドウ糖排泄の低下および代謝効率の改善に起因する。




●経口血糖降下薬:

経口血糖降下薬はU型糖尿病の初期治療であるが, 2剤以上の経口薬でも十分な血糖コントロールが得られないときにはインスリンがしばしば追加される。

経口血糖降下薬は,膵臓のインスリン分泌を亢進させたり(分泌促進薬),末梢組織のインスリン感受性を増強させたり(抵抗性改善薬),消化管からのブドウ糖吸収を阻害したりする。

作用機序の異なる薬物は相乗的に働く場合がある。



●スルホニル尿素薬(SU薬)はインスリン分泌促進薬で,膵β細胞のインスリン分泌を刺激することで血糖値を低下させ,糖毒性を軽減することで末梢および肝臓のインスリン感受性を二次的に改善させると考えられる。

第1世代薬(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 経口血糖降下薬の特徴表 4: 表を参照)は副作用が起こりやすく,ほとんど使用されない。

全てのSU薬は高インスリン血症および2〜5kgの体重増加を引き起こし,これはやがてインスリン抵抗性を増強してSU薬の有用性を制限する場合がある。

また,全てのSU薬は低血糖を引き起こす恐れがあり,危険因子には年齢65歳以上,長時間作用型の薬物の使用(特にクロルプロパミド,グリブリド,グリピジド),誤った食事および運動,腎不全または肝不全が含まれる。

長時間持続型の薬物による低血糖は治療中止後も数日間持続する可能性があり,ときに恒久的な神経障害を引き起こし,致死的となる恐れもある;

これらの理由から,一部の実地医家は低血糖患者,特に高齢者を入院させる。


●クロルプロパミドは抗利尿ホルモン分泌異常症候群も引き起こす。

SU薬のみを使用する患者の大半では,正常血糖に到達するために最終的に薬物の追加が必要になり,これはSU薬がβ細胞機能を疲弊させる可能性を示唆している。

しかし,インスリン分泌およびインスリン抵抗性の増悪は,糖尿病治療に使用された薬物の特性というよりは恐らく糖尿病自体の特性である。



●速効型インスリン分泌促進薬(レパグリニド,ナテグリニド)は,SU薬と類似の様式でインスリン分泌を刺激する。

しかし,速効型インスリン分泌促進薬では短時間で作用が発現し,食事中にそれ以外の時間よりも強くインスリン分泌が刺激される。

したがって,食後高血糖の軽減に特に有効で,低血糖のリスクも低いと考えられる。

SU薬と同様に,体重増加を引き起こしうる。



レパグリニドはSU薬またはメトホルミンと同程度の血糖降下作用を示すと考えられる;

ナテグリニドはやや有効性が低く,したがって軽度高血糖患者により適していると考えられる。

他の種類の経口薬(例,SU薬,メトホルミン)に反応しなかった患者が速効型インスリン分泌促進薬に反応する可能性は低い。




●ビグアナイド薬は肝臓でのブドウ糖産生(糖新生およびグリコーゲン分解)を減少させることによって血糖値を低下させる。

ビグアナイド薬は末梢インスリン抵抗性改善薬とみなされるが,ビグアナイド薬による末梢でのブドウ糖取り込み刺激は,単純に肝臓に対する効果に起因するブドウ糖減少の結果であると考えられる。

ビグアナイド薬は脂質を低下させ,さらに消化管からの栄養吸収も減少させたり,循環血液中のブドウ糖に対するβ細胞の感受性を亢進させたり,プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1の濃度を低下させて抗血栓作用を発揮したりする可能性もある。


●メトホルミンは米国で市販されている唯一のビグアナイド薬である。

メトホルミンは少なくともSU薬と同等の血糖降下作用を示し,低血糖を引き起こすことはまれで,他の薬物やインスリンとも安全に併用できる。

さらに,メトホルミンは体重を増加させず,食欲を抑制することによって体重減少を促進する可能性さえある。

メトホルミンは一般的に消化管の副作用(例,消化不良,下痢)を引き起こすが,大半の場合は時間とともに消失する。

頻度は低いものの,メトホルミンはビタミンB12吸収不良をもたらすが,臨床的に有意な貧血はまれである。

メトホルミンが生命を脅かす乳酸アシドーシスの一因となるかについては議論が続いているが,酸血症のリスクを有する患者(腎不全[クレアチニン1.4mg/dL以上],心不全,低酸素症または重度呼吸器疾患,アルコール中毒,その他の代謝性アシドーシス,脱水のある患者を含む)では禁忌と考えられている。

メトホルミンは,手術,造影剤の静注,および重篤な疾患の際には使用を控えるべきである。

メトホルミン単剤療法が行われている患者の多くでは最終的に薬物の追加が必要になる。



●チアゾリジン類(TZD)は末梢インスリン抵抗性を低下させるが(インスリン抵抗性改善薬),特異的な作用機序については十分に解明されていない。

チアゾリジン類は,主として脂肪細胞に存在し糖代謝および脂質代謝を制御する遺伝子の転写に関与する核内受容体(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ[PPARγ])に結合する。

また,TZDはHDL濃度を上昇させてトリグリセリド値を低下させ,抗炎症作用および抗アテローム性動脈硬化作用を有する可能性もある。

TZDはSU薬やメトホルミンと同等のHbA1c低下効果を示す。この種の薬物は比較的新しいので,長期の安全性および有効性に関するデータは得られていない。

TZDの1つ(トログリタゾン)は急性肝不全を引き起こしたものの,現在市販されているTZDでは肝毒性は立証されていない;しかし,肝機能の定期的なモニタリングが推奨される。


TZDは,特にインスリン使用中の患者で末梢浮腫を引き起こす可能性があり,感受性の高い患者では心不全を悪化させる恐れがある。

脂肪組織量の増加による体重増加が一般的にみられ,一部の患者ではそれがかなりの程度(>10kg)となることもある。



●αグルコシダーゼ阻害薬(AGI)は食物中の炭水化物を加水分解する腸管の酵素を競合的に阻害する;炭水化物はより緩徐に消化,吸収され,したがって食後血糖値が低下する。

AGIの血糖降下作用は他の経口薬よりも弱く,消化不良,鼓腸,下痢が生じることがあるので患者はしばしば薬物を中止する。

しかし,それ以外の点ではAGIは安全であり,他の全ての経口薬およびインスリンと併用可能である。

グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)(例,エクセナチド[インクレチンホルモン])はブドウ糖依存性のインスリン分泌を増強し,胃内容排出を緩徐にする。

また,エクセナチドは食欲を低下させ,体重減少を促す。

エクセナチドは1日2回食前に注射し,経口血糖降下薬と併用できる。

内因性GLP-1の利用率を上昇させる別の薬物も開発中である。



以上
   

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