「がん」とは?「癌」とは?「悪性腫瘍」とは?「抗がん剤」とは? |
●●●悪性腫瘍とは?●●●
悪性腫瘍(あくせいしゅよう、英: malignant tumor)は、遺伝子変異によって自律的で制御されない増殖を行うようになった細胞集団(腫瘍、良性腫瘍と悪性腫瘍)のなかで周囲の組織に浸潤し、また転移を起こす腫瘍である。
悪性腫瘍のほとんどは無治療のままだと全身に転移して患者を死に至らしめる。
一般に癌(ガン、がん、英: cancer、独: Krebs)、悪性新生物(あくせいしんせいぶつ、英: malignant neoplasm)とも呼ばれる。
「がん」という語は「悪性腫瘍」と同義として用いられることが多く、本稿もそれに倣い「悪性腫瘍」と「がん」とを明確に区別する必要が無い箇所は、同一語として用いている。
【語義】
悪性腫瘍(malignant tumor)」は、一般に「がん(英: cancer、独: Krebs)」として知られているが、病理学的には漢字で「癌」というと悪性腫瘍のなかでも特に「癌腫(上皮腫、carcinoma)」のことを指す。
日本語では平仮名の「がん」と漢字の「癌」は同意ではない(!!)。
平仮名の「がん」は、「癌」や「肉腫」、白血病などの血液悪性腫瘍も含めた広義的な意味で悪性腫瘍を表す言葉としてつかわれているからである。
したがって癌ばかりでなく肉腫や血液悪性腫瘍も対象にする「国立がん研究センター」や各県の「がんセンター」は平仮名で表記する。
「癌」を表す「cancer」は、かに座 (cancer) と同じ単語であり、乳癌の腫瘍が蟹の脚のような広がりを見せたところから、医学の父と呼ばれるヒポクラテスが「蟹」の意味として古代ギリシャ語で「καρκ?νο?
(carcinos)」と名づけ、これをアウルス・コルネリウス・ケルススが「cancer」とラテン語訳したものである。
漢字の「癌」は病垂と「岩」の異体字である「嵒」との会意形声文字で、本来は「乳がん」の意味である。
触診すると岩のようにこりこりしているからで、江戸期には「岩」と書かれた文書もある。
有吉佐和子の小説「華岡青洲の妻」には、乳がんを表す「岩(がん)」ということばが頻出する。
「悪性腫瘍」は「悪性新生物」とも呼ばれることがあるが、malignant neoplasmの訳語として作られた言葉で、malignant「悪性の」、neo「新しく」、plasm「形成されたもの」を意味する。
【概念】
「悪性腫瘍」とは、腫瘍の中でも、特に浸潤性を有し、増殖・転移するなど悪性を示すもののことである。
ヒトの身体は数十兆個の細胞からなっている。
これらの細胞は、正常な状態では細胞数をほぼ一定に保つため、分裂・増殖しすぎないような制御機構が働いている。
それに対して腫瘍は、生体の細胞の遺伝子に異常がおきて、正常なコントロールを受け付けなくなり自律的に増殖するようになったものである。
この腫瘍が正常組織との間に明確なしきりを作らず浸潤的に増殖していく場合、あるいは転移を起こす場合(多くは浸潤と転移の双方をおこす)悪性腫瘍と呼ばれている。
なぜ、「がん」は怖い病気なのか?
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●無制限に栄養を使って増殖するため、生体は急速に消耗する
●臓器の正常組織を置き換え、もしくは圧迫して機能不全に陥れる
●異常な内分泌により正常な生体機能を妨げる(→播種性血管内凝固症候群 (DIC)、傍腫瘍症候群、高カルシウム血症)
●全身に転移することにより、多数の臓器を機能不全に陥れる
「がん」は「転移」して生態を消耗させて、多数の臓器を機能不全に陥れる、これが「がん」が怖いという2大理由なわけです。
●●●【がん理解の歴史の概略】●●●
がんという病気を理解しようとする人たちは古代からおり、悪戦苦闘が繰り広げられてきた。
(上述のごとく)cancerという言葉の歴史は古いもので、古代ギリシア語のkarkinos カルキノス(=カニ)に由来している。
あちこちに爪を伸ばし食い込んでゆく様子を、その言葉で表現したのである。
がん研究、腫瘍学を指す「オンコロジー」という言葉も、古代ギリシア語のoncos オンコス(=塊 かたまり)を語源としている。
古代ローマのガレノス(2〜3世紀ごろ)は、がんは四体液のひとつの黒胆汁が過剰になると生じる、と考えた。(ガレノスというのは1500年ころまでは、医学の領域で「権威」とされた人物である)。
ガレノスの後継者のなかには、情欲にふけることや、禁欲や、憂鬱が原因だとする者もいた。(いろんな学説があるものです。)
また同後継者には、ある種のがんが特定の家系に集中することに着目して、がんというのは遺伝的な病苦だ、と説明する者もいた。
18世紀後半をすぎるころになると、がんの一因として環境中の毒(タバコ、煙突掃除夫の皮膚につく煙突の煤、鉱坑の粉じん、アニリン染料が含有する化学物質 等)もあるのでは、とする説が、多くの人によって提唱された。
19世紀なかごろに、フィラデルフィアの名外科医のサミュエル・グロスは「(がんについて)確実にわかっていることは、我々はがんについて何も知らない、ということだけである」と書いた。
そして、そのような「何も知らない」という状況は、19世紀末の時点でも、ほとんど変わっていなかった。
その後1世紀ほどを経た現在、がんについてある程度のことは分かったと言える状態になった。
だが、その理解は一気になされたわけではなく、理解を進めるたびに研究者の間で新たな疑問が登場し、科学的な知識が徐々に増えてきた、という状態なのである。
がん研究は研究者たちにとって、多くの困難と挫折に満ちたものであった。
20世紀初頭には、「感染症は特定の微生物によって引き起こされる」という説を支持する例が実験によって多数確認されため、他の病気も容易に解明されるだろうと考えたり、がんも解明されるだろうと予想する人は多かった。
だが、そのような予想は安易すぎたのである。
【悪性腫瘍に関連する医学的分類】
悪性腫瘍(malignant tumor)の用語は病理学において以下のように分類される。
●癌腫(羅: carcinoma):上皮組織由来の悪性腫瘍
●肉腫(羅: sarcoma):非上皮組織由来の悪性腫瘍
●その他:白血病など
また、下記のようが特徴がある。
●癌腫・・・(由来)上皮性、(発育速度)速い、(年齢)高齢者、(転移行性)リンパ行性、(構造)胞巣構造
●肉腫・・・(由来)非上皮性、(発育速度)より速い、(年齢)若年者、(転移行性)血行性、(構造)混合
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【がんの発生機序】 |
悪性腫瘍が生じるしくみについては様々な説明がある。
比較的多い説明というのは、遺伝子におきた何らかの変化・病変が関わって生じている、とする説明である。
では、その遺伝子の何らかの病変がどのように生じているのか、ということに関しては、実に様々な要素・条件が指摘されていて、研究者ごとにその指摘の内容や列挙のしかたは異なる。
数百年前に比べれば、かなり多くのことが判ってきてはいるものの、現在でも悪性腫瘍発生のしくみの全てがすっきりと解明されているとも言えず、研究者を越えて同一の考え方が共有されているとも言い難い。
発生機序について、どの説明でもほぼ共通して言及されている内容というのは、何らかの遺伝子の変化と細胞の増殖の関係である。
その説明というのは例えば以下のようなものである。
身体を構成している数十兆の細胞は、分裂・増殖と、「プログラムされた細胞死」(アポトーシス)を繰り返している。
正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるよう制御されている。
すなわち細胞が老化・欠損して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わる。
ところが特定の遺伝子(p53など、通常複数の遺伝子)に変異(=書き変わること)が生じると、このプロセスの秩序を乱してしまうようになる。
すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。
ただし、数十兆個の細胞で構成されている人体全体では、実は、毎日数千個単位で遺伝子の病変は生じており、それでも健康な人の場合は一般に、体内に生じた遺伝子が病変した細胞を、なんらかのしくみによって統制することに成功しており(免疫やいわゆる自然治癒力)、遺伝子が病変した悪性のがん細胞が
体内にある程度の個数存在するからといって、必ずしも人体レベルで悪性腫瘍になるというわけでもない、ということも近年では明らかにされている。
一方で「全ての遺伝子の突然変異ががんに関係しているわけではなく、特定の遺伝子(下述)の変異だけが関与している」と述べたり主張したりする研究者もいるが、他方で、「発癌には様々なプロセスが関わっている」「がんに関与する因子ならびにがんに至るプロセスは単一ではなく、複数の遺伝子変異なども含めて様々な機構の不具合が関与する」とする研究者もいるのである(多段階発癌説)。
臨床の現場で「悪性腫瘍」と判断される段階に至るまでには、個々の細胞の遺伝子の変化以外にも、人体のマクロレベルで働いている機構(例えば、がん化した細胞を制御する免疫機構、広く自然治癒力とも呼ばれているしくみなど)が不具合に陥ってしまうことも含めて、さまざまな内的・外的な要因が複雑に作用している、とも指摘されているのである。
近年では大規模統計、疫学的な調査によって、人々の生活環境に存在する化学物質などの外的な要因や、その人の生活習慣など、様々な条件・要因が悪性腫瘍発生の要因として働いている、と分析されるようになっている(後述)。
また、今日では、最近研究が進んだエピジェネティック研究(*)も反映して、遺伝子のエピジェネティック変化が要因となることもある、と指摘されることもある。
このように悪性腫瘍の発生機序については、諸見解があるものの、いずれにせよ、そうして生じた過剰な細胞は組織の塊を形成し、臨床の場でも認識できるようになり、医師等によって「腫瘍」あるいは「新生物」と呼ばれるようになる。
そして、腫瘍は「良性(非がん性)」と「悪性(がん性)」に分類されることになる。
良性腫瘍とは、まれに命を脅かすことがあるが(特に脳に出来た場合)、身体の他の部分に浸潤や転移はせず、肥大化も見られないものをそう呼んでいる。
一方、悪性腫瘍は浸潤・転移し、生命を脅かすものをそう呼んでいるのである。
(*)エピジェネティックとは・・・・エピジェネティクス(英語:epigenetics)とは、クロマチンへの後天的な修飾により遺伝子発現が制御されることに起因する遺伝学あるいは分子生物学の研究分野である。
【がん発生に関与する遺伝子群】
現在、がん抑制遺伝子といわれる遺伝子群の変異による機能不全がもっともがん発生に関与しているといわれている。
たとえば、p53がん抑制遺伝子は、ヒトの腫瘍に異常が最も多くみられる種類の遺伝子である。
p53はLi-Fraumeni症候群 (Li-Fraumeni syndrome) の原因遺伝子として知られており、また、がんの多くの部分を占める自発性がんと、割合としては小さい遺伝性がんの両方に異常が見つかる点でがん研究における重要性が高い。
p53遺伝子に変異が起こると、適切にアポトーシス(細胞死)や細胞分裂停止(G1/S細胞周期チェックポイント)(*)を起こす機能が阻害され、細胞は異常な増殖が可能となり、腫瘍細胞となりえる。
p53遺伝子破壊マウスは正常に生まれてくるにもかかわらず、成長にともなって高頻度にがんを発生する。
p53の異常はほかの遺伝子上の変異も誘導すると考えられる。
p53のほかにも多くのがん抑制遺伝子が見つかっている。
一方、変異によってその遺伝子産物が活性化し、細胞の異常な増殖が可能となって、腫瘍細胞の生成につながるような遺伝子も見つかっており、これらをがん遺伝子と称する。
これは、がん抑制遺伝子産物が不活性化して細胞ががん化するのとは対照的である。
がん研究はがん遺伝子の研究からがん抑制遺伝子の研究に重心が移ってきた歴史があり、現在においてはがん抑制遺伝子の変異が主要な研究対象となっている。
(*)細胞分裂について・・・・細胞周期は、光学顕微鏡での観察に基づき、M期(M phase)と間期(interphase)に分けられる。
M期は連続した2つの過程、有糸分裂と細胞質分裂で構成される。
有糸分裂では細胞の染色体が2つの娘細胞にわかれ、細胞質分裂では細胞質が割れて2つの個別の細胞になる。
間期はその内容からさらにG1期、S期、G2期に分けられる。
1段階前の期間が適切に進行、完了すると、次の期間の開始が活性化される。
一時的にもしくは可逆的に分裂を停止した細胞は、G0期と呼ばれる静止期に入ったとされる。
詳しくはこちら
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●「細胞周期」
【がん治療後の生活の質の向上】
がん治療後の最大の関心事は再発の有無であり、又は、がんが残っている場合にはその推移である。
このため、治療後も主治医による定期的な検診を受けて状況を正しく把握しつつ生活を再建していくことが肝要である。
がん治療は手術による切除などを伴うことが多く、治療後の生活は、例えば治療によってがんそのものは完治した場合であっても、大きく影響を受けることが多い。
がんができた場所によって治療により影響を受ける機能は千差万別であり、対処法もそれぞれに異なる。
一般に、切除などによって失われる体の機能をできる限り小さくし、失われた機能を補う手段を用いて、治療後の生活の質(QOL, Quality Of
Life)を従来よりも向上させる努力が進められている。
術後は局所的な失われた機能そのものだけでなく、関連して周囲の障害や不自由さが生じることも多いので、それぞれにおいて必要なリハビリを行うことも重要である。
【日本人に多いがん】
長年に渡り、日本人の最も死亡率の高いがんは胃がんでした。
しかし禁煙、胃がんの治療成績がよくなったことや、生活スタイルの変化に伴い、死亡率の高いがんの種類も変わりました。
現在最も死亡率の高いがんは肺がんです。
1993年(平成5)に男性のがんで死亡率が最も高くなり、1998年(平成10)にはついにがん全体でも死亡率の第1位となっています。
また食生活の欧米化により従来は少なかった大腸がん、中でも結腸がんでの死亡が急増しています。
ただし、罹患率はやはり胃がんが高く、以前として第1位です。
次いで大腸がん(結腸がん及び直腸がん)、肺がん、肝がんと続きます。
男女別では、男性は胃がん、大腸がん、肺がん、肝がんの順、
女性では乳がん、大腸がん、胃がん、子宮がんの順になります。
女性の場合、女性特有のがんが罹患の1位に入っていることが大きな特徴といえます。
また、年齢による変化をみると、男性では40歳以上で胃、大腸、肝臓などの消化器系のがんになる人が多くなり、70歳以上では前立腺がんと肺がんになる人の割合が高くなります。
女性では、40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんになる人が多いのですが、高齢になると消化器系のがんと肺がんの割合が増えます。
●●●【胃がんについて】●●●
胃癌(いがん、英Stomach cancer、独Magenkrebs:MK)は胃に生じる癌の総称。
広義の「胃癌」には以下の種類がある。
●胃粘膜上皮から発生した癌腫:狭義の胃癌
●上皮以外の組織から発生した悪性腫瘍:GIST・胃悪性リンパ腫など
【胃がんの疫学】
胃癌は中国、日本、韓国などアジアや南米に患者が多く、アメリカ合衆国をはじめ他の諸国ではそれほど顕著ではない。
2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位であった(厚生労働省
人口動態統計より)。
かつて日本では男女とも胃癌が第1位であったが、死者数は年々減少している。
胃癌の発生過程でヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)による「慢性萎縮性胃炎」の関与が示唆されている。
2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)による「食事、栄養と生活習慣病の予防」(Diet, Nutrition and
the Prevention of Chronic Diseases) では、食塩の摂取は1日5g以下(ナトリウム2g以下)とされ、塩や塩蔵の食品は胃癌のリスクが上がることが起こりうるとしている。
厚生労働省による研究では、塩分濃度の高い食事を日常的に摂取する人たちは、そうでない人たちに比べて胃癌となるリスクが高いことが統計的に示されている。
【胃がんの病理】
組織型としては、ほとんどが腺癌(胃小窩や胃腺に分化する円柱上皮幹細胞から生ずる)であり、まれにガストリン等の内分泌細胞から生ずる内分泌細胞癌(=高悪性度カルチノイド)が発症する。
【胃がんの検査】
胃癌か否かを決定するのは原則として胃から摂取した細胞の病理検査である。
●画像検査
★上部消化管造影検査
いわゆる「バリウム検査」「胃透視」である。
内視鏡検査に先んじて、日本で開発・研究された検査であり、現在でもその功績から、多くの癌検診として広く行われている。
内視鏡と比較して安全かつ医師でなくても施行出来るため、集団検診で用いられる。
内視鏡で診断しにくいスキルス胃癌の発見に有効なことがある。
★上部消化管内視鏡
現在において最も確実な検査方法。
病変部の細胞を採取して診断できるため確実度が増す検査であるが、造影検査よりも費用高価・身体負担が多いため、集団検診には向いていない。
多くの医療機関・人間ドックで施行される。
【胃がんの病期】
胃癌の進行度は、以下に分類し、生存率がほぼ等しくなるようにグループ分けしたのが病期(Stage)であり、数字が大きくなるほど進行した癌であることを表す。
国際的にはUICC(International Union Against Cancer)のTNM分類が用いられるが、日本では胃癌取扱い規約による病期分類が広く使用されている。
画像検査による、臨床診断による病期診断が行われ、手術加療を行う場合には、手術結果によって最終的な病期診断(Final Stage)が確定される。
■■ 形態 ■■
肉眼的形態は以下のように分類される。
★0型 表在型 病変の肉眼的形態が軽度な隆起や陥凹を示すに過ぎないもの。
★1型 腫瘤型 明らかに隆起した形態を示し、周囲粘膜との境界が明瞭なもの。
★2型 潰瘍限局型 潰瘍を形成し、潰瘍をとりまく胃壁が肥厚し周堤を形成し、周堤と周囲粘膜との境界が比較的明瞭なもの。
★3型 腫瘍浸潤型 潰瘍を形成し、腫瘍をとりまく胃壁が肥厚し周堤を形成するが、周堤と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの。
★4型 びまん浸潤型 著明な潰瘍形成も周堤もなく、胃壁の肥厚・硬化を特徴とし、病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの。
★5型 分類不能 上記分類に当てはまらないもの。
■■ 深達度 ■■
組織学的深達度によってT分類は決定される。
T分類はクリニカルステージを決定するのに非常に重要な因子である。
T1:癌の浸潤が粘膜(M)または粘膜下層(SM)にとどまるもの。
リンパ節転移の有無を問わず、早期胃癌といわれることが多い。
粘膜筋板から0.5mm未満をSM1、それ以降をSM2と細分化することもある。
T2:癌の浸潤が固有筋層(MP)に至るもの。
T3:癌の浸潤が漿膜下組織(SS)に至るもの。
T4a:遊離腹腔に露出しているもの(SE)。
T4b:癌の浸潤が直接他臓器まで及ぶもの(SI)。
TX:癌の浸潤の深さが不明なもの。
■■ 進行 ■■
TNM分類としてはN:リンパ節転移、H:肝転移、P:腹膜転移、CY:腹腔細胞診、M:遠隔転移がある。
N:リンパ節転移
N0:リンパ節転移を認めない
N1:領域リンパ節転移が1〜2個
N2:領域リンパ節転移が3〜6個
N3:領域リンパ節転移が7個以上
NX:リンパ節転移の程度が不明
H:肝転移
H0:肝転移を認めない。
H1:肝転移を認める。
HX:肝転移の有無が不明である。
P:腹膜転移
P0:腹膜転移を認めない。
P1:腹膜転移を認める。
PX:腹膜転移の有無が不明である。
CY:腹腔細胞診
CY0:腹腔細胞診で癌細胞を認めない。
CY1:腹腔細胞診で癌細胞を認める。
CYX:腹腔細胞診を行っていない。
M:遠隔転移
M0:肝転移、腹膜転移および腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移を認めない。
M1:肝転移、腹膜転移および腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移を認める。
MX:遠隔転移の有無が不明である。
【胃がんの治療】
他の癌の治療と同様に、治療方針は癌の病期によって変わってくる。
主に以下にあげられる治療を集学的に行っていく。
以下は狭義の胃癌の治療について記述。
★内視鏡治療
分化型でリンパ節転移の無い早期胃癌と診断される病変に対し、EMR・ESDといった内視鏡治療が広く行われてきている。
★手術治療
以前より、根治術として外科的手術は根幹を成しており、胃切除術+リンパ節郭清が根治術の基本である。
また、癌の進行が進んでいると術前診断がなされれば、大網・脾臓・胆嚢といった周囲他臓器合併切除を行う拡大手術が行われる。
★化学療法
胃癌に対する化学療法は、術後の補助治療や、術後再発、全身転移・周囲浸潤を生じ手術的加療による根治が困難な場合に施行される。
化学療法に用いられる薬剤の一部を下記に示す。
薬剤の投与量・タイミングの組み合わせによって様々な「レジメ」(レジメンともいう)が提唱されている。
●CDDP(シスプラチン)・カルボプラチン
●CPT-11(イリノテカン)
●パクリタキセル・ドセタキセル
●メソトレキセート
●5-FU
●UFT
など。
★分子標的治療薬
近年、開発が進んだ薬物群である。
特定の受容体・酵素を低分子化合物もしくはモノクローナル抗体がある。
上皮細胞増殖因子などの細胞の増殖シグナルの阻害や癌細胞の直接傷害により治療する。
現在、治験や研究段階にある。
●トラスツズマブ(抗HER2モノクローナル抗体製剤, 商品名: ハーセプチン)
●ベバシツマブ (抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)モノクローナル抗体製剤 , 商品名: アバスチン)
●ゲフィチニブ (チロシンキナーゼ阻害剤, 商品名: イレッサ)
●エベロリムス (mTOR阻害剤、ペプチジル・プロリル・シストランスイソメラーゼであるFKBPを阻害する。現在、治験が進められている)
★放射線治療
腺癌が多いため、放射線療法は多くは行われない。
術後病変に対する治療や、未承認治療法として術中照射(intraoperative radiation therapy)が手術の補助として有効かどうか研究されている。
★生物学的療法(免疫療法)
生物学的療法(免疫療法とも呼ばれる)は身体の免疫が癌細胞を攻撃するのを補助する治療法であり、他の治療法の副作用から回復させる補助としても施されることがある。
未承認治療法として他の治療法と併用して、再発癌の防止する生物学的治療法研究が医者によって進められている。
別の生物学的治療法として、化学療法中あるいは治療後に(白血球など)血球が減少した患者に、コロニー刺激因子などを投与して、血球数レベルの回復の手助けをすることがある。
ある種の生物学的治療法を受ける患者は入院が必要な場合がある。
★予後
早期に発見され治療が行われれば予後の良い癌である。
国立がんセンター中央病院胃癌グループの統計によると、5年生存率は胃癌全体で71.4%、StageIで91.2%、StageIIで80.9%、StageIIIで54.7%、StageIVでは9.4%であった。
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●●●【乳がんについて】●●● |
乳癌(にゅうがん、英: Breast cancer)は、乳房組織に発生する癌腫である。
世界中でよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳癌罹患する機会を有する。
それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされている。
また乳癌女性患者のおよそ20%がこの疾患で死亡する。
【乳がんの疫学】
乳がんに罹患するリスクは年齢と共に増加する。
日本人女性の場合、生涯で乳がんに罹患する確率は25人〜30人に1人(欧米は8〜10人に1人)である。
極めて稀に男性も乳癌に罹患することがある。
乳癌に罹患する確率は色々異なった要因で変わってくる。
家系によっては、乳癌は遺伝的家系的なリスクが強い家系が存在する。
人種によっては乳癌リスクの高いグループが存在し、アジア系に比べてヨーロッパ系とアフリカ系は乳癌リスクが高い(breastcancer.org参照)。
他の明確になっているリスク要因としては以下の通り。
★妊娠・出産歴がない。
★第一子の後。
★母乳を与えない。
★初経年齢(月経が始まった年齢)が低い。
★閉経年齢が高い。
★ホルモン療法(エストロゲン製剤、ピル等)を受けている。
★女性化乳房(男性の場合)。
★高脂肪の食事
★飲酒
★喫煙
★シフトワークによる不規則な生活
【乳がんの症状】
★乳房のしこり、隆起(新たにできたもの)
★乳房の陥凹(新たにできた「えくぼ」)
★乳汁分泌、血性乳汁
★脇の下のリンパ節を触れる
【乳がんの検診】
30歳代から高齢の女性ほど罹患率が高い為、今日では多くの国で検診を受けることが推奨されている。
検診には胸部自己診断法 (breast self-examination) とマンモグラフィー (mammography) も含まれる。
いくつかの国では、壮老年女性の全員の毎年のマンモグラフィー検診が実施され、早期乳癌の発見に効果を挙げている。
ただし、検診にもデメリットは存在する。
乳癌患者発見の背後には、その10倍以上の乳癌でない被験者が精密検査へと回り、生検(乳房に針をさす)を受けていることも事実である。
こういったことから、2009年にはアメリカの予防医学作業部会が40代の定期的なマンモグラフィ検診は推奨しないと発表し、大きな議論となった。
マンモグラフィーは早期乳癌を発見する為の選択肢のひとつであり、これひとつですべての年齢、すべての乳癌の、早期発見がカバーできるものではない。
欧米では生涯乳癌リスクが20%以上の女性に対して造影剤を用いたMRIによるスクリーニングが推奨されている。
日本では現在、40代における超音波検査の併用検診の効果について大規模な臨床研究が行われている。
CTはX線被曝や費用の問題もあり、検診に用いられることは希である。
20歳代での検査は、マンモグラフィ(描出率43%)よりも乳房超音波検査(描出率86%)が診断に有用である可能性が示唆された。
【乳がんの病理診断】
病理医はふつう、腫瘍の組織型と、顕微鏡的なレベルの進行度合い(浸潤性であるか否か、など)を生検の報告に記述している。
浸潤性乳癌の殆どは腺癌 (adenocarcinoma) であり、その中で最も普通の亜型は浸潤性乳管癌 (infiltrating ductal
carcinoma ICD-O code 8500/3) である。
他の亜型としては浸潤性小葉癌 (infiltrating lobular carcinoma ICD-O code 8520/3)、髄様癌(medullary
carcinoma)、粘液癌(mucinous carcinoma)、管状癌(tubular carcinoma)、浸潤性微小乳頭癌(invasive
micropapillary carcinoma)、化生癌(metaplastic carcinoma) などがある。
稀に、腺癌以外の癌腫(あるいは癌腫以外の悪性腫瘍)がみられる。
また乳腺の増殖性病変の一部は乳癌と紛らわしい良性病変、良性と紛らわしい乳癌の顕微鏡像を呈することがあり、正しい診断に到達するためには、免疫染色という方法を用いることがある。
乳腺病理専門医にたいしてセカンドオピニオンを求めたり、針生検においては無理に最終診断を下さず切除生検を推奨することも、時に重要となってくる。
診断が付くと、次は癌の病期の判定に移る。
腫瘍の広がり具合と、浸潤や転移の有無を、病期判定の尺度とする。
【乳がんの病期】
乳癌の病期(ステージ)は腫瘍の乳房内での広がり、リンパ節への転移の有無、癌細胞の遠隔転移で決まってくる。
腫瘍の乳房内での広がりには、腫瘍のサイズ、皮膚や胸壁への浸潤の有無、炎症性乳癌という病態かどうかが含まれる。
浸潤・転移が疑われリスクが高い場合は、CTスキャン、骨(シンチグラフィー)、フルオロデオキシグルコース陽電子断層撮影(FDG-PET)、磁気共鳴画像(MRI)、血液検査等の追加の検査で、遠隔転移の発見が試みられる。
腫瘍医はTNM分類で区分を簡潔に表現し、推奨される治療法を決定する。
癌の病期を分類する一つの方法としてもTNM分類が使われる。
TNMとはTumour(腫瘍)、Nodes(リンパ節)そしてMetastasis(転移)の頭文字を取りを短くしたものである(*)。
あるいはエストロゲン受容体 (estrogen receptor) 、HER2/neu癌遺伝子、増殖マーカーであるKi-67 indexなど生物学的要因もまた、治療を選択する上での要点となる。
*TNM分類とは、悪性腫瘍の病期分類に用いられる指標の1つ。
国際的には国際対がん連合(UICC)によって定められたTNM分類が有名だが、日本では癌取扱い規約においてもTNM記号を使った病期分類が定められており、広く用いられている。
両者はそれぞれ異なった基準を持つ。
視診、触診、X線検査などの一般的な検査所見から分類する。
★T 原発巣の大きさと進展度を表す。T1〜4までの4段階に分けられる。
★N 所属リンパ節への転移状況を表す。転移のないものをN0とし、第一次リンパ節、第二次リンパ節への転移、周囲への浸潤の有無からN3までの段階に分ける。
★M 遠隔転移の有無を表す。遠隔転移がなければM0、あればM1となる。
以上を指標としてstage I〜IVまでの4期に分ける。記述する際にはT2N1M0のように記述する。実際には各悪性腫瘍ごとに独自の分類を定めていることが多い。
【乳がんの治療】
乳癌の治療は原則的には外科的切除であり、抗がん剤や抗エストロゲン剤など化学療法と放射線療法が併用される。
★外科手術
手術StageT〜VAに対して適応となる。
最近では、乳房温存術と乳房切除術とでは予後に差が無いことが報告されてきており、手術は拡大手術ではなく縮小手術が行われる傾向にある。
腫瘤の大きさによって切除範囲が選択されるため、>3cm以上の大きな腫瘤や、胸壁や皮膚へ直接浸潤しているような進行している場合には広範囲切除となる。
切除断端陽性(遺残)が再発の高リスクであるため出来る限りの腫瘤摘出が望まれる。
手術の際には、リンパ節郭清として、センチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy)が行われ、リンパ節転移のある場合に腋窩リンパ節郭清が行われる。
★放射線療法
乳房温存術後の局所再発の予防を目的とした乳房全照射が行われる。 転移および再発における症状緩和を目的とした照射がある。
★化学療法
術後化学療法は再発リスク評価に応じて適用され、内分泌薬・抗がん剤・分子標的治療薬の3種類を用いて行われる。
また術前化学療法も行われる。また再発・転移性乳癌においても化学療法が行われる。
▼内分泌薬
乳癌はエストロゲン依存性であることが多いことから、エストロゲン受容体(ER)・プロゲステロン受容体(PgR)の発現の高いものは内分泌薬が奏功する。
抗エストロゲン薬:タモキシフェン
アロマターゼ阻害薬:アナストロゾール・エキセメスタン・レトロゾール
LH-RH作用薬:
閉経前後で以下の通りに行われる。
1.閉経前女性:抗エストロゲン薬+LH-RH作用薬
2.閉経後女性:抗エストロゲン薬 or アロマターゼ阻害薬
抗がん剤
以下の通りに行われる。
基本的にER/PgR発現の低いもの(陰性)の場合に行われる。
CMF(シクロホスファミド+メソトレキセート+フルオロウラシル)
CAF(シクロホスファミド+アドリアシン+フルオロウラシル)
AC(アントラサイクリン系:ドキソルビシン+シクロホスファミド)
分子標的治療
ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)陽性の場合、分子標的治療薬が奏功する。
トラスツズマブ:HER-2モノクローナル抗体
ラパチニブ:EGFR・HER-2低分子阻害薬
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●●●【抗がん剤について(1)】●●● |
★化学療法の原理
感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患の治療に化学療法という言葉は使われる。
根本的な病因は異なるが、薬理学的な見地からは一般的な治療の原則は極めて類似している。
どちらも選択毒性というところにターゲットを置いている。
★選択毒性の原理
宿主には存在せず、病原体やがん細胞にのみある特異的な標的物質を攻撃する。
宿主に似た物質であるが同一ではない病原体、がん細胞の標的物質を攻撃する。
宿主と病原体、がん細胞に共通するがその重要性が異なる標的物質を攻撃する。
これら3つに集約することができる。
もし、標的細胞や病原体が該当薬物に対して感受性があり、耐性が生じるのがまれで、かつ治療指数が高い(滅多に中毒量に達しない)のなら、単剤療法の方が多剤併用療法よりも望ましくない副作用を最小限に食い止めることができる。
多くの感染症の場合は、これらの条件を満たすため、原則一剤投与となる。
悪性腫瘍の場合は腫瘍細胞はいくつかの種類のものが混在しており、更に耐性を得やすく、毒性のため投与量に制限があることが多く単剤投与は失敗に終わることが多いため多剤併用療法となる。
多剤併用療法も複数もやみくもに組み合わせればよいというものではなく、いくつかの重要な経験則がある。
標的とする分子が異なる薬物、有効とされる細胞周期の時期が異なる物質、用量規定毒性が異なる薬物を併用するのが一般的である。
さらにできるだけ相乗効果(シナジー)を得られる投薬を工夫する。
このようにすることで、結果として最小の毒性で最大の結果が得られると考えられている。
また、近年は支持療法の進歩で、多くの抗がん剤において最大耐容量をさらに増やすことができるようになったということが注目に値する。
G-CSFの投与によって骨髄抑制を回復を図る時間を短く取ることができ、アロプリノールの投与によって、腫瘍融解症候群を抑制し、全身合併症を減少させることができるようになった。
フォリン酸(ロイコボリン)の投与によってメソトレキセートの大量投与が可能になった。
またフォリン酸とフルオロウラシルの併用がフルオロウラシル単独投与よりも治療効果が高いということも分かってきた。
またacute emesisの治療薬が開発されることにより、治療中も食事摂取が可能な場合が増えてきたといったことが挙げられる。
治療効果とは関係はないが、オピオイド(*)を駆使した疼痛対策、緩和医療の発達により患者のQOLも著しく高まったといえる。
*オピオイドとは・・・・オピオイド (Opioid) とは、オピオイド受容体と親和性を示す化合物の総称。
「オピウム(アヘン)類縁物質」という意味であり、アヘンが結合するオピオイド受容体に結合する物質(元来、生体内にもある)として命名された。
アヘンに含まれるものとしてはモルヒネ、コデインなどがあり、これらを元に合成したものとしてはナロキソン、フェンタニルなどが医薬品として用いられる。
詳細はこちら
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●「オピオイドとは」
感染症治療と抗がん剤投与が原理がほぼ同じであるため、感染症学で多用されるPD(薬力学)、PK(薬物動態学)といった概念は腫瘍学でも有効であり、抗がん剤にもシナジーは存在し、脳腫瘍では血液脳関門があるため使用薬剤は制限される。
抗菌薬投与で髄液移行性が問題となったように、脳腫瘍に有効な抗がん剤は極めて少ない。
非ホジキンリンパ腫は基本的にR-CHOP療法で治療されることが多いが、病変が脳の場合はR-CHOP療法は有効でなく、HD-AraCやHD-MTXといった治療が選択される。
がん細胞は細胞周期が速く進む(分裂が速い)といったところを標的にすることが多いが、アポトーシス感受性の違いも重要なターゲットとなる。
細胞周期がターゲットなると、骨髄や消化管上皮、毛包といった細胞周期が早い正常細胞も攻撃される。
抗がん剤で必発と言われる症状は骨髄抑制、悪心、脱毛であるが、不思議なことに、最も患者を苦しめる悪心は消化管粘膜障害によるものではないことが多い。
【細胞周期と抗がん剤】
前述のように、抗腫瘍薬は異なる細胞周期に働きかけるもの、用量規定因子が異なるもの、作用する部位が異なりシナジーを得られるものを組み合わせて作られている。
実際の有効性はEBMによってなさられるべきだが、ある程度の理論的背景は存在する。
細胞周期はDNAを合成するS期、有糸分裂をするM期に分かれる。
細胞が分裂し、DNAの合成が始まるまでをgap1 (G1) といい、DNAの合成が終了し有糸分裂が始まるまでをgap2 (G2) という。
これらはサイクリンとサイクリン依存性キナーゼによって調節されており、これらを監視する系に数多くのがん抑制遺伝子が存在する。
原則としてはアルキル化薬は細胞周期非依存性に働き、それ以外は何かしら周期に特異的に働く。
傾向としてステロイドはG1に働き、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害薬はDNA合成のS期に働く、ビンカアルカロイド系など微小管機能阻害薬はM期に働く。
基本的に用量規定因子は骨髄抑制であることが多く、それゆえに骨髄機能を温存する為に間欠的スケジュールで投与する場合が多い。
【抗がん剤の種類】
主な抗がん剤は以下に大別される。
DNA合成あるいは何らかのDNAの働きに作用し、作用する細胞周期をもって分類する。
★アルキル化薬 (alkylating agents)
★白金化合物
★代謝拮抗薬 (anti-metabolites)
★トポイソメラーゼ阻害薬
★微小管阻害薬
★★★★★★ アルキル化薬 ★★★★★★
アルキル化薬は細胞内条件下で、種々の電気陰性基をアルキル化することでその名称がつけられた。
アルキル化剤は直接DNAを攻撃して二重鎖のグアニル塩基同士を架橋することで腫瘍の増殖を停止させる。
架橋によりDNAは一本鎖になったり分離することが出来なくなる。
二重鎖が解けることはDNAの複製に必須の為、細胞はもはや分裂することができなくなる。
★★ ナイトロジェンマスタード(nitrogen mustard)類 ★★
●シクロホスファミド(CPA エンドキサン)
●イホスファミド(IFM イホマイド)
●メルファラン(L-PAM アルケラン)
●ブスルファン
●チオテパ(TEPA テスパミン)
これらはアルキル基を有する求電子性分子であり、このアルキル基がDNAの求核性部位と間に共有結合を形成する。
これによりDNAを周期非特異的に傷害する。
最もよく使われるのがシクロホスファミドであるが、用量規定毒性は骨髄抑制である。
有名な副作用に出血性膀胱炎があるが、メスナ(ウロミテキサン)にて予防がある程度可能である。
また、シクロホスファミドを始めとするアルキル化薬は免疫抑制薬として用いられることもある。
この場合は抗腫瘍薬としてよりも低用量である。
★★ ニトロソウレア類 ★★
●ニムスチン(ACNU ニドラン)
●ラニムスチン(MCNU サイメリン)
●ダカルバシン(DTIC、ダカルバシン)
●プロカルバシン(PCZ 塩酸プロカルバシン)
●テモゾロマイド(TMZ テモダール)
●ベンダムスチン(トレアキシン)
いずれも悪性リンパ腫や慢性骨髄性白血症で用いられることがある。
ニトロソウレア類は中枢神経の移行もよく、脳腫瘍に用いられることがある。
★★★★★★ 白金製剤 ★★★★★★
●シスプラチン(CDDP ブリプラチン アイエーコール)
●カルボプラチン(CBDCA パラプラチン)
●オキサリプラチン(L-OHP エルプラット)
●ネダプラチン(CDGP アクプラ)
用量規定因子は腎毒性があり、この他に悪心、嘔吐といった消化管症状もよく見られる。
カルボプラチンはシスプラチンの腎毒性を軽減し、抗腫瘍効果も同等であることから、シスプラチンに置き換わって使用される傾向がある。
オキサリプラチンは大腸癌直腸癌に有効性が示されている。
有名な副作用に末梢神経障害があり、FOLFOXの患者でよく診られる。
★★★★★★ 代謝拮抗剤 ★★★★★★
代謝拮抗剤 (anti-metabolites) はDNAの構成要素のプリンやピリミジンのイミテーションであり、(細胞周期の)S期にDNAへのプリンやピリミジンの取り込みを防止する。
それにより、正常な増殖や分裂は停止する。重要な代謝拮抗剤の代表として5-フルオロウラシル (5-FU) が挙げられる。
★★ 葉酸代謝拮抗薬 ★★
葉酸は1炭素単位の移動(C1代謝という人もいる)を含む多くの酵素反応に関与するビタミンである。
これらの反応はDNAとRNAの前駆体、グリシン、メチオニン、グルタミン酸といったアミノ酸、ホルミルメチオニンtRNAや他の重要な代謝産物の生合成に重要な反応である。
植物は自ら生合成するが人は生合成することができず経口摂取する。
しかし、DHF、THF、MTHFの変換といった代謝は行われているので、その部位をターゲットとした場合、葉酸代謝阻害薬でヒト細胞も傷害できる。
★★ その他の代謝拮抗剤 ★★
●ピリミジン代謝阻害薬
●プリン代謝阻害薬
●ヌクレオチドアナログ ・・・・・など等
★★★★★★ トポイソメラーゼ阻害薬 ★★★★★★
I型トポイソメラーゼは1本鎖DNAのらせん制御、II型トポイソメラーゼは2本鎖DNAのらせん制御をすると考えられており、作用が複雑で多目的な働きをするII型トポイソメラーゼを阻害したほうが効果があると考えられている。
●カンプトテシンとその誘導体(I型トポイソメラーゼを阻害する)
●イリノテカン(CPT-11、カンプト)
●ノギテカン(NGT ハイカムチン)
用量規定因子は消化器毒性と骨髄抑制である。
特に下痢は致死的になることもある。
FOLFIRIでは止痢剤としてロペミンを併用することがしばしばある。
骨髄抑制も非常に強い。
★★★★★★ 微小管重合阻害薬 ★★★★★★
ビンカアルカロイド系
これらの抗がん性アルカロイドは植物より産生され、微小管の形成を抑止することで細胞分裂を妨害する。
これらは微小管の重合を阻害する。
ビンブラスチン(VLB、ビンブラスチン、エクザール)やビンクリスチン(VCR、オンコビン)、ビンデシン(VDS、フォルデシン)が含まれる。
ビンブラスチンの用量規定因子は骨髄抑制であるが、悪心、嘔吐といった消化器症状もよく出る。
ビンクリスチンは悪性リンパ腫や小児白血病でよく用いられる薬だが、こちらの用量規定因子は末梢ニューロパチーである。
末梢神経の微小管の障害によって起こるとされている(軸索輸送など)。
骨髄抑制はビンブラスチンより軽度であるが、末梢ニューロパチーはよく起こる。
特に麻痺性イレウス、便秘は必発である。
★★★★★★ 微小管脱重合阻害薬 ★★★★★★
タキサン系 パクリタキセル(PTX、TAX、タキソール)やドセタキセル(DTX、TXT、タキソテール)が含まれる。
微小管が重合した状態でより安定にすることで、細胞の有糸分裂を停止させ、アポトーシスへ導く。
パクリタキセルの用量規定因子は末梢ニューロパチーであり、溶剤によるアレルギー反応が多く、デキサメサゾンや抗ヒスタミン薬で予防可能である。
ドセタキセルはパクリタキセルよりニューロパチーは起こしにくいが、強い骨髄抑制と体液貯留が起こる。
用量規定因子は骨髄抑制である。
ちなみに僕(ホーライ)は、ドセタキセルであるタキソテールの卵巣がんの開発をやっていました。
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●●●【抗がん剤について(2)】●●● |
分子標的治療について
分子標的治療(英: targeted therapy)とは、がん細胞に特有あるいは過剰に発現している特定の分子を狙い撃ちにして、その機能を抑えることにより病気を治療する治療法。
正常な体と病気の体の違いあるいは癌細胞と正常細胞の違いをゲノムレベル・分子レベルで解明し、癌の増殖や転移に必要な分子を特異的に抑えたり関節リウマチなどの炎症性疾患で炎症に関わる分子を特異的に抑えたりすることで治療する。
従来の多くの薬剤もその作用機序を探ると何らかの標的分子を持つが、分子標的治療は創薬や治療法設計の段階から分子レベルの標的を定めている点で異なる。
また、この分子標的治療に使用する医薬品を分子標的治療薬と呼ぶ。
【分子標的治療の特徴】
従来の抗癌剤(殺細胞性抗癌剤)が細胞傷害を狙うのに対し、分子標的治療薬は多くが細胞増殖に関わる分子を阻害する。
そのため臨床応用される以前は分子標的治療は腫瘍を縮小させず、増大を抑えるのみであると考えられていた。
癌細胞特異的に効果を示す(ことが期待できる)ため至適投与量は最大耐用量ではなく、最小有効量でありまた最大耐容量と最小有効量の差が大きい可能性があり、そのため毒性のプロファイルが異なることが期待される。
しかし、実際に分子標的治療が広く行われるようになると分子標的治療薬は腫瘍縮小効果を示し、それもゲフィチニブの標的分子である変異EGFRのように当初想定していなかった未知の分子が標的となり臨床効果を示す可能性がでてきた。
毒性に関しても間質性肺炎のように想定していなかった致死的毒性が出る可能性があり、一概に毒性が少ないとは言えないことが判明した。
【分子標的治療の種類】
分子標的治療薬には以下の2つがある
●低分子化合物(Small molecule)
●モノクローナル抗体(Monoclonal antibody)
★★★★【低分子化合物】★★★★
低分子化合物には以下の種類がある。
★★ チロシンキナーゼ阻害剤 ★★
●イマチニブ(グリベック)
Bcr-AblチロシンキナーゼおよびKITチロシンキナーゼ阻害剤であり、慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)、消化管間質腫瘍(GIST)の治療に使用される。
●ゲフィチニブ(イレッサ)
上皮成長因子受容体(EGFR) チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であり、非小細胞肺癌の治療に使用される。
●エルロチニブ(タルセバ)
ゲフィチニブと同様EGFR-TKIであり、非小細胞肺癌の治療に使用される。
●ダサチニブ(スプリセル)
Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤でありイマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病、再発又は難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の治療に使用される。
●バンデタニブ(ZD6474、ザクティマ)
血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)と上皮成長因子受容体(EGFR)の両者を阻害する。
非小細胞肺癌に対し、臨床試験が進行中である。
●スニチニブ(SU11248、スーテント)
血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)キナーゼ、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)キナーゼ、KITキナーゼを阻害する。
GISTや腎癌の治療に使用される。
●ニロチニブ(タシグナ)
Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤でありイマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病(CML)の治療に使用される。
●クリゾチニブ(XALKORI)
Alkの阻害剤である。
リンパ腫や肺がんの非小細胞癌に効く可能性が示唆されている。
特にALKの転座を持ったものに著効し、第二のグリベックとも呼ばれる。
★★★★ モノクローナル抗体 ★★★★
★★ キメラ抗体(語尾が?ximab)
可変領域はマウス由来であるが、その他の定常領域をヒト由来の免疫グロブリンに置換したもの。
●リツキシマブ(リツキサン)
抗CD20抗体であり、B細胞性非ホジキンリンパ腫やB細胞性白血病、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に使用される。
●セツキシマブ(アービタックス)
抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体であり、大腸癌、頭頸部癌に使用される。
★★ ヒト化抗体(語尾が?zumab)
可変領域のうち相補性決定領域(complementarity-determining region:CDR)がマウス由来で、その他のフレームワーク領域(framework
region:FR)をヒト由来としたもの。
免疫原性はキメラ抗体よりもさらに低減する。
●トラスツズマブ(ハーセプチン)
抗HER2抗体であり、乳癌の治療に使用される。
●ベバシズマブ(アバスチン)
抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体であり、大腸癌、非小細胞肺癌、乳癌の治療に使用される。
新生血管を阻害するため加齢黄斑変性への応用が期待されている。
★★ヒト抗体(語尾が?mumab)
ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いて、完全なヒト型抗体の産生が試みられている。
●パニツムマブ(ベクティビックス)
ヒト型抗EGFRモノクローナル抗体で、大腸癌・直腸癌の治療に用いられる。
●オファツムマブ(アルゼラ)
ヒト化抗CD20抗体で、B細胞性慢性リンパ性白血病の治療に用いられる。
★★★★★★★★【がん別にみる抗がん剤】★★★★★★★★
●●脳腫瘍●●
アルキル化剤のニムスチン(ニドラン)やラニムスチン(サイメリン)、そして2006年に承認されたテモゾロミド(テモダール)は、分子量が小さく血液脳関門を通過できるため、脳腫瘍の抗がん剤治療に使われています。
●●肺がん●●
肺がんに対する抗がん剤治療では、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤に、別の抗がん剤を加えた二剤併用療法が標準的な治療法となっています。
●●乳がん●●
シクロホスファミド、メトレキサート、フルオロウラシルを組み合わせる「CMF療法」や、シクロホスファミド、ドキソルビシン、フルオロウラシルの組み合わせる「CAF療法」が行われます。
●●食道がん●●
シスプラチンとフルオロウラシルの組み合わせによるPF療法、あるいはこれに放射線療法を併用するのが、一般的な治療法です。
●●胃がん●●
胃がんは基本的に薬に対する感受性が乏しい、すなわち抗がん剤が効きにくいがんとされてきましたが、シスプラチンやイリノテカンの登場により化学療法の方法は大きく変わりつつあります。
●●胆嚢がん●●
これまで、抗がん剤の効果はあまり期待できませんでした。
しかし最近では、塩酸ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)が使われるようになり、治療成績は以前より上がってきています。
●●膵臓がん●●
日本膵臓学会がまとめた膵臓がんの「診療ガイドライン」では、現在のところ、ゲムシタビン(ジェムザール)の使用が標準治療として推奨されています。
この薬が使用できるようになったことで、以前に比べて予後が良好になっています。
●●大腸がん●●
大腸がんに有効な抗がん剤は、フルオロウラシル、イリノテカン、オキサリプラチン、テガフール・ウラシルなどです。
近年は、抗がん剤の新しい組み合わせによって、がんの縮小、症状コントロール、再発予防、延命、QOL向上などの効果が報告されています。
●●腎臓がん●●
腎臓がんは手術のみが完治を期待できる治療法で、抗がん剤の効果はあまり期待できないとされています。
がんの転移が認められる場合には、インターフェロン・α(アルファ)が用いられます。
●●膀胱がん●●
膀胱がんに対しては抗がん剤が比較的効きやすく、半数以上の患者に治療効果が期待できる抗がん剤の併用療法が見つかっています。
主に、膀胱内注入療法と全身化学療法が行われます。
●●前立腺がん●●
従来、前立腺がんには抗がん剤が効かないとされてきましたが、近年の研究ではドセタキセル(商品名:タキソテール)という抗がん剤が有効であることがわかってきました。
●●子宮がん●●
子宮頸がんによく行われる抗がん剤治療は、シスプラチンを基本とした併用療法です。子
宮体がんには、シスプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミドを組み合わせる方法が一般的です。
●●卵巣がん●●
一般に卵巣がんは、抗がん剤がよく効くがんに分類されており、40%以上でがん細胞の完全消失が認められます。
シスプラチンは手術不能な進行がんにも効果があり、単独または併用療法として広く用いられています。
●●白血病●●
急性白血病は、その種類にもよりますが、抗がん剤がよく効くため、白血病細胞を排除して、骨髄が正常な血液を作り出せる状態に戻し、完全に治すことが期待できます。
慢性白血病は、多くの場合、慢性期では薬でコントロールでき、普通の生活が送れます。
●●多発性骨髄腫●●
最もよく使用されるのは、メルファラン(アルケラン)もしくはシクロホスファミド(エンドキサン)です。
近年ではサリドマイドの有効性も証明されており、難治な再発の多発性骨髄腫に対して、救済治療の第一選択肢になりうると考えられています。
・・・・・・・ということで、今週は「癌、がん、抗がん剤」について見てきました。
「がん」は他人事ではありません。
自分のことです。
今後も、画期的な抗がん剤が出てくることを願ってやみません。
最後に。
↓
患者必携 がんになったら手にとるガイド(PDF版)
↓
●「患者必携 がんになったら手にとるガイド」
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