.

「モニターへの道」のホームに戻る



 リスクに基づくモニタリング・リスクベースドモニタリング
 
●リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について

今週は下記の「事務連絡」等を見ていきます。
   ↓
https://sites.google.com/site/zhiyanniguansurutongzhiji/

●リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について(平成25年7月1日事務連絡)

●治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方について(平成25年7月1日事務連絡)

●治験関連文書における電磁的記録の活用に関する基本的考え方について(平成25年7月1日事務連絡)


今日は「リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について」です。

1ページ目に次のようにあります。
   ↓
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

平成24 年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「医師主導治験等の運用に関する研究」において、リスクに基づくSDV手法等の適用による治験のモニタリング業務の効率化を図るための方策・考え方についての検討がなされ、研究報告書がとりまとめられました。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


上記にある「医師主導治験等の運用に関する研究」とはこのブログで以前にも見ましたが下記の資料です。(厚生労働省の「治験ホームページ」にあります。)
   ↓
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/chiken/dl/130410-1.pdf


さて、事務連絡に戻ります。

2ページ目にアメリカと欧州における「リスクに基づくモニタリング又は品質管理に関するガイダンス案」が紹介されています。

と言っても、ただ、ガイダンス案が出されているというだけですが。

とは言え、「いずれのガイダンス案においても、臨床試験の品質管理の重要性を指摘しつつ、リスクに基づくモニタリング手法を適切に適用し、モニタリング業務の効率化を図ることを推奨している。」ことは言及しています。


さらに、「実地のモニタリング(SDV)以外の方法」について、下記のように事務連絡では述べています。   
   ↓
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(以下「GCP省令」という。)においても、被験者の安全性の確保及び治験の科学的な信頼性を確保できるのであれば、モニタリングを実地でのSDVを主体とする手法以外で実施することは可能とされており、GCP省令第21条第2項及び第26条の7第3項に係るガイダンス(平成24年12月28日付薬食審査発1228第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)に中央モニタリングが定義されている。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




上記の「中央モニタリング」は最近のGCPで言われ始めたものではなく、ICH-GCP⇒答申GCP⇒「新GCP」の頃から規定されていた概念です。

で、「中央モニタリングとは」何かと言えば、GCPでは次のように記載されています。(GCP第21条のガイダンス)
   ↓
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「他の方法により十分にモニタリングを実施することができる場合」とは、例えば、治験の方法(評価項目等を含む。)が簡単であり、参加実施医療機関の数及び地域的分布が大規模であるなどのために実施医療機関等への訪問によるモニタリングが困難である治験において、治験責任医師等又は治験協力者等の会合及びそれらの人々に対する訓練や詳細な手順書の提供、統計学的にコントロールされた方法でのデータの抽出と検証、治験責任医師等との電話、ファックス等による交信等の手段を併用することにより、治験の実施状況を調査し、把握することが可能かつ妥当である場合である。

このモニタリングの方法は「中央モニタリング」と呼ばれる。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


最近はEDCが普及してきましたよね。

このEDCが「中央モニタリング」に該当するという考えもあるわけです。



●リスクに基づくSDV手法とは・・・・・
   ↓
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


リスクに基づくSDV手法とは治験の目的に照らしたデータの重要性や被験者の安全確保の観点から、当該治験の品質に及ぼす影響を考慮し、あらかじめ定められた方法に従って抽出したデータ(データ項目に限らず、症例、医師、実施医療機関及び来院時期等も含む。)を対象としてSDVを行う方法をいう。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




さて、では、事務連絡で新たに述べられていることは?
   ↓
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

リスクに基づくモニタリング及びSDV手法の適用に際しての基本的考え方

以上のような状況を踏まえ、治験の実施に当たってリスクに基づくモニタリング及びSDV手法を適用する際の現時点における基本的考え方を以下に示す。


・モニタリング手法の多様化に伴い、医療機関はSDVによらないモニタリングが実施されることを考慮し、速やかにデータを提出するよう努める必要がある。


・リスクに基づくモニタリング及びSDV手法を適用する際には、治験の品質確保のため、治験責任医師、分担医師、臨床研究コーディネーター等の関係者が、本手法の目的及び手続きについて十分に理解していることが必要である。

その上で、医療機関において正確な症例報告書の作成等の責務が自らにあることを、関係者が自覚して行動することが求められる。


・治験実施医療機関においては、治験のプロセス管理に重点を置いて、正確な症例報告書が作成されるための適切な方策が実施されていることが必要である。

例えば、治験に関連して医療機関で収集されるデータを適切に管理するために、通常でも診療録に記録が残される事項(情報)と治験のために特別に記録を残すべき事項が明確に区別され、双方を適切に記録に残すためのルールと体制が確立していること等が考えられる。


・治験依頼者(又は自ら治験を実施する者)においては、当該治験目的を達成するために必要な事項に絞ってデータ収集を行う等、試験のデザイン(治験実施計画書や症例報告書の様式など)を簡潔明瞭なものにすることが重要である。


・リスクに基づくモニタリング及びSDVの具体的な手法を検討する際には、治験の目的、試験デザイン、エンドポイント、試験対象集団並びに治験責任医師及び医療機関等の経験や治験の実施体制等が考慮されるべきである。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


うむ。

「医療機関において正確な症例報告書の作成等の責務が自らにあることを、関係者が自覚して行動することが求められる。」ですよね。

モニターがCRFを鉛筆で下書きする時代は急速に去りつつあるというわけです。
 
リスクに基づくモニタリングとは「まんべんなく全てのデータをモニタリングするのではなく、データの重要性に応じてSDV等をしますよ」ということ。

リスク・ベースド・モニタリングとはRisk based monitoringのことですが、中味は上記の「リスクに基づくモニタリング」と一緒です。

ただ、英語にしただけですね。




さて、それでも、いったい、リスクに基づくモニタリングとは何? と考えてしまいます。

その参考になるのが、下記の資料です。
  ↓
「リスクに基づくモニタリングとは」
  ↓
http://www.jpma-newsletter.net/PDF/2013_157_03.pdf


最近、中央モニタリングとかリモートモニタリング、リスクに基づくSDV、サンプリングSDV、Off-site Monitoring(オフサイトモニタリング)など等、いろんなモニタリングの手法が紹介されてきました。



オフサイトモニタリングとは、モニターが実際に病院へ足を運んでモニタリングするわけではなく、モニターと医療機関の担当者(CRC等)が施設訪問以外の方法で行うコミュニケーションのこと。

たとえば、電話とかテレビ会議とかスカイプを使うとか。



まぁ、どのようなモニタリング手法を使おうと目的は同じです。

「被験者の安全性の確保」と「データの信頼性の確保」。




さて、ここで頭痛薬の「頭痛いがナオール錠」の製造をあなたがやっていると仮定します。

工場でできあがった頭痛薬「頭痛いがナオール錠」は「当然」品質を確認してから、出荷します。

たとえば、この頭痛薬「頭痛いがナオール錠」は「崩壊試験」で必ず10分以内に崩壊すると規定されています。

でも、全ての「頭痛いがナオール錠」に対して崩壊試験をするわけにはいきません。

100万錠の「頭痛いがナオール錠」を製造したら、100万錠に対して崩壊試験をやったら、出荷できる「頭痛いがナオール錠」が無くなりますよね。

では、実際はどうするか?


「抜き取り試験」で崩壊試験をするわけです。

たとえば、SOP等で100万錠の中からランダムに6錠を選び、その6錠が10分以内に崩壊したら、残りの99万9994錠は合格、ということにします。

何故、こんなことができるのでしょうか?

それは、100万錠が同じ品質、一定の品質で作られているはずだという仮定があるからです。

どうしたら、100万錠が同一の品質になるのでしょうか?

頭痛薬「頭痛いがナオール錠」の品質は、出荷前の「品質試験」で品質ができあがるわけではありません。

「品質試験」をやるから「品質」があるわけではないですよね。

「品質は工程の中で織り込まれる」という考えがGMPの基本です。



その昔、こんな言葉が製薬会社の工場でも聞かれたそうです。(はるか、はるかの大昔の話です)

「おい、頭痛薬「頭痛いがナオール錠」を来週までに100万錠ぐらい作っておいて。」

「わかりました。いつものとおりでいいんですよね。」

「ああいいよ。ただし、打錠器はいつものAが調子悪そうだから、打錠器Bで、適当にやっておいて。」

「原材料はどこにありますか?」

「多分、倉庫Aにあるやつでまにあうよ。」

・・・・・・・・・・・等など。

「いつものとおり」とはどういう方法でしょう?

「適当に」とはどういうことでしょう?

「多分」でいいのでしょうか?

 
 
 ●治験の質構築はプロトコル作成から


今週は治験の質はプロセスで担保する、をテーマに話をしています。



「いつものとおり」とはどういう方法でしょう?

「適当に」とはどういうことでしょう?

「多分」でいいのでしょうか?

こういう方法で作っていたら頭痛薬「頭痛いがナオール錠」は均一の品質で毎回、製造されるとは言えませんね。

普通は頭痛薬「頭痛いがナオール錠」の製造SOPがあるわけです。

そのSOPの中には「原材料は受け入れ試験を合格した材料を倉庫Bより持ち出して使うこと」とか「原料の秤量は製造指図書に従って行い、必ず二人で重さを確認し、秤量値をデジタル印刷し、記録に残すこと」等と書かれているはずです。

また、「打錠器はシグマ社製00を使い、打圧は●●にし、1万錠ごとに3錠を抜き取り硬度を測定し、硬度がXX〜XXの間にあることを確認すること」等と細かく規定されているはずです。

「いつものとおり」とか「適当に」とか「多分」ではだめですよね。

必ず文書で指示を出し、SOPに従って製造するからこそ、それぞれの工程ごとに品質が織り込まれていくわけです。

その結果、出荷前の崩壊試験では6錠の試験結果だけで「全部の錠剤がOK」ということになるわけです。



こういう考えを治験に持ち込みましょう。





治験も同じです。

まず、正しい結果がでるよう設計されたプロトコルがあります。

実はプロトコルにも出来不出来があり、誤解されそうな表現が多いプロトコルは、必ず、逸脱が頻発します。

手順が複雑であればあるほど逸脱が増えます。

記載すべき項目が多ければ多いほど、転記ミスが増えます。



過不足無い情報を誤解しようがない表現方法でプロトコルを作成します。

それをモニターが補足しながら治験責任医師等に説明します。

治験責任医師等はプロトコル(手順)を確認しながら治験を進めます。

治験責任医師等は治験依頼者より指示された内容のデータを指示された方法で指示された様式に記載します。

上記のことができているという仮定(一定以上の質があること)が成立して、はじめてリスクに基づくモニタリングが可能となります。


「初めにリスクベースドモニタリングありき」ではありません。
 ●プロセスの確認は優先順位をつけてやる


今週は治験の質はプロセスで担保する、をテーマに話をしています。


さて、クイズです。

モニターの1日は何時間でしょうか?

正解は24時間です。(あなたや僕と同じです。)

その限られた時間の中で「どのデータをどのようにチェックさせるか」は重要です。

確認すべき項目にプライオリティをつけないとモニターは1日が25時間あっても足りません。

ここに優先順位が1から100までついた確認すべき項目が100個あったとします。

優先順位が100番目の項目について、微に入り細に入り確認していたら、優先順位1番目のデータの確認ができませんでした、なんてことにもなりかねません。

誰がそんなことをモニターにさせているのでしょう?



被験者の10年前の既往歴のことで時間をとられているうちに併用禁止薬が投薬されてプロトコル違反になったりします。

何故、プロトコル違反やGCP違反が永遠に無くならないのでしょう?

もちろん100万種類の理由があります。

対処療法では間に合いません。

そこで、「適切なプロセス」(考えられる限り、プロトコル違反やGCP違反が発生ないようの手段を講じる)が必要になるわけですね。
 ●プロトコル違反を予測する


今週は治験の質はプロセスで担保する、をテーマに話をしています。



治験の質作りはプロトコルの作成段階から始まります。

誰が読んでもひととおりの読み方しかできないように明確に治験の手順を記述します。

必要とするデータは出来る限り少なくします。

と言うか、不要なデータを無駄に集めるようなプロトコルは作りません。


病気と同じでプロトコル違反は対処療法よりも予防が重要かつ効果的。

日常診療とは違う手順を要求すると、それだけでプロトコル違反になりがちです。

例えば、臨床検査で血清中の「カルシウム」を測定しない、とします。

ところが、病院でルーチンで臨床検査をする時はカルシウムを測定しますよね。

そこで、つい、検査伝票でカルシウムも測定するよう指示が出たりします。

もし、このように「いつもと違う手順」を要求するプロトコルの場合は、必ずそこでプロトコル違反が発生すると想定して、プロトコル違反防止策を考えます。

そこから治験の質の折込が始まります。
 ●治験の入り口から出口まで「正しいプロセス」を作る


今週は治験の質はプロセスで担保する、をテーマに話をしています。


治験の質の構築は治験が始まる前から始まります。

その治験薬の評価を最も適切に行えるように治験のプロセスを考えます。

それをプロトコルに反映させます。(分かりやすく、明瞭に。誤解を招くような表現を無くして。)

適切なプロセスが想定どおり(プロトコルどおり、GCPどおり)に動くようにプロセス管理をモニターが行います。

どこかでプロセスが破たんしたら(プロトコル違反が発生したら)、その原因、理由を深く追求します。

その原因、理由を排除できるように手段を講じます。

例えばプロトコルの記載方法が手順の違反を発生させるような記載になっていたら、それを是正します。

あるいは、分かりやすくフローチャートを作ったり、補助手段を講じます。

500症例を集める治験であったら、500症例が全て同じプロセスで治験が実施され、同じプロセスでデータを収集します。

データ収集時にも質の管理を行います。

もし、CRFのデザインが悪くて、データが正しく収集できないならば、CRFを改訂します。

治験の入り口から出口まで「正しいプロセス」を作っておきます。

そして、モニターはそのプロセスが想定以内で走っていることを確認します。

その確認方法として、中央モニタリングとかリモートモニタリング、リスクに基づくSDV、サンプリングSDV、Off-site Monitoring(オフサイトモニタリング)など等があるわけです。


100%正しく動いているかどうかを確認しようとするのは現実的ではありませんし、かえって、重要なミスを見逃してしまう可能性が高まります。

焦点を絞って、重要度の高いデータの信頼性確保を最優先します。

そのために、あなたがいるのですから。
 



このページの上へ

「モニターへの道」のホームに戻る

inserted by FC2 system