【糖尿病の説明】

治験担当モニターのための糖尿病の説明
「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について
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●糖尿病とは?
今週は「糖尿病」について学びます。

今後も、ときどき、こんなふうにある疾患について学んでいきます。

何故か?

スーパーモニターやスーパーCRCになるには、浅くてもいいので、幅広い疾患の知識が必要だからです。

何故か?

何故ならば、どんな疾患を対象としたプロトコルであったとしても、有害事象としては、なんでもありえるからです。

たとえば、「更年期障害」を対象とした治験を担当したとしても、患者さんがいつ「子宮がん」になるかわかりませんし、「糖尿病」になってしまうかもしれません。

たとえば、「高血圧」を対象としたプロトコルだとしても、患者さんが突然、「緑内障」になってしまう可能性もありますし、「肺炎」なってしまう可能性だってあります。

だから、有害事象の対応がいつでもできるように、幅広い知識を持っておいたほうがモニターもCRCもやりやすいわけです。

それに、いつでも、どんな疾患の治験でも担当できるぞ!とスタンバイしておくのが賢いモニターでありCRCです。


とまぁ、そんなこんなで、今週は「糖尿病」についての勉強会です。

1週間を使って「糖尿病」を学んでいきましょう。




糖尿病(とうにょうびょう、Diabetes Mellitus: DM)は、血糖値(血液中のグルコース(ブドウ糖)濃度)が病的に高い状態をさす病名である。

ひとことに血糖値が高いと言っても、無症状の状態から、著しいのどの渇き・大量の尿を排泄する状態、さらには意識障害、昏睡に至るまで様々であるが、これらをすべてまとめて、血糖値やヘモグロビンA1c値が一定の基準を超えている場合を糖尿病という。

糖尿病は高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると血中の高濃度のグルコースがそのアルデヒド基の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質と結合し、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、目、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な傷害(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害)を及ぼす可能性があり、糖尿病治療の主な目的はそれら合併症を防ぐことにある。

なお、腎臓での再吸収障害のため尿糖の出る腎性糖尿は別の疾患である。

1674年、イギリスの臨床医学者トーマス・ウィリスはヨーロッパで当時奇病とされていた多尿症の研究をしていた。

ウィリスは尿に含まれる成分を何としても知りたいと考え、患者の尿を舐めてみたところ、甘かったことが本病確認のきっかけとされている。


う〜〜〜ん、よく患者の尿を舐めたものだよね。

科学者の探究心の凄いこと。



血液中のブドウ糖濃度(血糖値、血糖)は、様々なホルモン(インスリン、グルカゴン、コルチゾールなど)の働きによって正常では常に一定範囲内に調節されている。

ホルモンの中で血糖値を下げるのはインスリンだけだ。

いろいろな理由によってこの調節機構が破綻すると、血液中の糖分が異常に増加し、糖尿病になる。

糖尿病は大きく1型と2型にわけられるが、これはこの調節機構の破綻の様式の違いを表している。

1型糖尿病では膵臓のβ細胞が何らかの理由によって破壊されることで、血糖値を調節するホルモンの一つであるインスリンが枯渇してしまい、高血糖、糖尿病へと至る。


一方2型糖尿病では、血中にインスリンは存在するのだが肥満などを原因としてインスリンの働きが悪くなるか、あるいは自己免疫的に破壊された訳ではないが膵臓のβ細胞からのインスリン分泌量が減少し、結果として血糖値の調整がうまくいかず糖尿病となる。

その他にも、妊娠糖尿病をはじめとして発症機序の違いに基づくいくつかの病名があって、これらをひとまとめにしている糖尿病は病名というより症候群と言ったほうが適切である。



「糖尿病」の名称は、血糖が高まる結果、尿中に糖が排出されることに由来する。

しかし尿中に糖が排出されること自体は大きな問題ではない。


1型糖尿病の場合、放置すると容易に急激な高血糖と生命の危険も伴う意識障害を来す糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こしかねないため、インスリン注射などの積極的な治療により強力に血糖値を下げることが基本的な治療目標となる。

一方2型糖尿病においては1型ほど血糖値が上昇することは通常ないが、治療せず長期に放置すると糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などの糖尿病慢性期合併症の起こる頻度が多くなるため、生活習慣の是正、経口血糖降下薬やインスリン注射により血糖値をある程度下げることによってこのような合併症を引き起こすことを防ぐことが治療目標である。

長期的に落ち着いている1型糖尿病においては、やはり治療目標は2型と同様のものになる。

妊娠糖尿病においては、妊婦の高血糖を原因として胎児奇形や妊産婦合併症の頻度が高くなる理由となるので、それを防ぐために血糖値を下げる治療をするのである。
●糖尿病の疫学的側面
世界保健機関 (WHO) によると、2006年の時点で世界には少なくとも 1億7100万人の糖尿病患者がいるという。

患者数は急増しており、2030年までにこの数は倍増すると推定されている。糖尿病患者は世界中にいるが、先進国ほど(2型の)患者数が多い。

しかしもっとも増加率の高い地域はアジアとアフリカになるとみられており、2030年までに患者数が最多になると考えられている。

発展途上国の糖尿病は、都市化とライフスタイルの変化にともなって増加する傾向があり、食生活の「西欧化」と関連している可能性がある。

このことから糖尿病には(食事など)環境の変化が大きくかかわってくると考えられる。


先進国において、糖尿病は 10大(あるいは5大)疾病となっており、他の国でもその影響は増加しつつある。

米国を例にとると、北米における糖尿病比率は、少なくともここ20年間は増加を続けている。

2005年には、米国だけでおよそ 2080万人の糖尿病患者がいた。

全米糖尿病協会(American Diabetes Association) によると、620万人の人々がまだ診断を受けておらず、糖尿病予備軍は4100万人にまで及ぶ。

日本国内の患者数は、この40年間で約3万人から700万人程度にまで増加しており、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われる。

厚生労働省発表によると、2006年11月時点の調査データから、日本国内で糖尿病の疑いが強い人は推計820万人であった。


●糖尿病の症状

通常糖尿病患者は自覚症状はないと考えることが多い。

しかし、よくよく話を聞いてみると、下記に列挙するような手足のしびれや便秘などが実はあるのだが、特別な症状と考えていないことがある。

血糖値がかなり高くなってくると、口渇・多飲・多尿という明白な典型的症状が生じる。

これらは血糖値が高いということをそのまま反映した症状なので、治療により血糖値が低下するとこれらの症状は収まる。

血糖値がさらに高くなると、重篤な糖尿病性昏睡を来たし、意識障害、腹痛などをきたすこともある。


いっぽう発症初期の血糖高値のみでこむら返りなどの特異的な神経障害がおこることがある。

また発症初期に急激に血糖値が上昇した場合、体重が減少することが多い(血液中に糖分が多い一方、脂肪細胞などは糖分が枯渇した状態になるためである)。

その他の症状は、たいてい糖尿病慢性期合併症にもとづくものである。

●糖尿病性網膜症を発症すると視力が低下する

●糖尿病性腎症によって最終的にはむくみや乏尿、全身倦怠感など種々の症状が出現する。

●糖尿病性神経障害には2種類あって、末梢神経障害によって手足のしびれなどがおこる一方、自律神経障害がおこると便秘、立ちくらみ、勃起不全などの原因となる。

●糖尿病は皮膚にも糖尿病性リポイド類壊死をはじめとする様々な合併症を引き起こすことがあって、それに伴う症状が出現することがある。


これらのような糖尿病に典型的な合併症に加えて、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症、脳梗塞も糖尿病においてはきわめて起こりやすいので、それらの病気に由来する症状を起こすことがある。
 

●糖尿病の治療
概要

●糖尿病の治療は病因、または重症度(進行度)によって異なる。2型糖尿病初期において最も重要なのは食事療法と運動療法である。

●食事療法、運動療法でコントロールがつかない場合は経口血糖降下薬、インスリンといった薬物を使用する。

●治療効果判定は血糖値に準ずるパラメータで行うこととなっている。治療する目的は糖尿病の各種合併症を防ぐということである。



初期糖尿病の治療で重要なのが、食事療法と運動療法である。

高血糖ストレスによるインスリン分泌細胞の疲弊、死滅が進行する前に開始することが望ましい。

耐糖能異常の段階から生活習慣の修正や体脂肪減量を行うことが糖尿病患者の発生を防ぐために推奨されている。

体脂肪の中でも内臓脂肪の減量が重要とされ、インスリン抵抗性を解除し、高血糖状態からインスリン分泌低下の悪循環を和らげることができる。

これは糖尿病の進行がどの段階でもいえることである。

糖尿病の診断がつく前、いわゆる境界型糖尿病の段階から行うべき治療である。

特にIGTといわれる境界型糖尿病では大血管障害のリスクが高いため積極的な治療が必要と考えられており、ビグアナイド薬やαグルコシダーゼ阻害剤(以下αGI薬と表記)といった経口血糖降下薬も生活習慣の改善には劣るが効果があるといわれている。

これらの内服は食事、運動の改善が不可能な患者にも一定の効果はあるもの糖尿病の進行を必ずしもくいとめられるわけではなく、治療方法もガイドライン化されていない。




●インスリン療法の適応

▼インスリン依存状態であるとき

▼糖尿病性昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、乳酸アシドーシス)であるとき

▼重症の肝障害、腎障害を合併する時

▼重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)のとき

▼糖尿病合併妊娠(妊娠糖尿病で食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない場合も含む)

▼中心静脈栄養時の血糖コントロール


●インスリン療法

インスリン療法としては強化インスリン療法とその他の治療法に分けられる。

まずはインスリンの適応があるかどうかを判断する。

インスリンの適応があると判断したら、患者の状態を把握し、インスリン強化療法を行うのか、それともその他の治療法を行うのかを判断する。

インスリン療法の基本は健常者にみられる血中インスリンの変動パターンをインスリン注射によって模倣することである。

健常者のインスリン分泌は基礎インスリン分泌と、食事後のブドウ糖やアミノ酸刺激による追加インスリン分泌からなっている。

これをもっともよく再現できるのは強化インスリン療法であるが、手技が煩雑であるのがネックである。



今後の糖尿病管理も強化インスリン療法を行うのなら、患者教育なども行い導入する価値はあるが、手術や処置で一時的に経口血糖降下薬を用いられないという場合、生活スタイルから強化インスリン療法を行うのが不可能な場合はその他の療法が選択される。




●強化インスリン療法

強化インスリン療法とは、インスリンの頻回注射、または持続皮下インスリン注入(CSII)に血糖自己測定(SMBG)を併用し、医師の指示に従い、患者自身がインスリン注射量を決められた範囲で調節しながら、良好な血糖コントロールを目指す方法である。

基本的には食事をしている患者では、各食前、就寝前の一日四回血糖を測定し、各食前に速効型インスリン(R)を就寝前に中間型インスリン(N)の一日四回を皮下注にて始める。

オーソドックスなやり方としては各回3〜4単位程度、一日12〜16単位から始める。

朝食前のRは昼食前の血糖を下げ、昼食前のRは夕食前の血糖を下げ、夕食前のRは就寝前の血糖を下げ、就寝前のNは朝食前の血糖を下げると考えると分かりやすい。

量を調節する場合は2単位程度までの変更にとどめた方が安全である。
経口血糖降下薬
経口血糖降下薬(OHA: oral hypoglycemic agent)は、2型糖尿病において血糖値を正常化させることで慢性合併症のリスクを軽減させる目的にて処方される薬物の総称である。

1994年までは米国でも使用できた薬物はインスリン分泌促進薬のみであったものの、2008年現在、日本ではインスリン分泌促進薬、速効型インスリン分泌促進薬、ブドウ糖吸収阻害薬、インスリン抵抗性改善薬という4種類の薬物が入手可能である。



インスリン分泌促進薬としてはスルホニルウレア剤 (SU薬)、速効型インスリン分泌促進薬としてはフェニルアラニン誘導体、ブドウ糖吸収阻害薬としてはαグルコシダーゼ阻害剤 (αGI薬)、インスリン抵抗性改善薬としてはビグアナイド剤 (BG薬)、チアゾリジン系誘導体(TZD薬)が知られている。

また最近、ペプチジルペプチダーゼ4 (DPP4) 阻害剤という新しいジャンルの治療薬が登場し、期待を集めている。



1998年イギリスでUKPDSという大規模比較試験が行われて以来、糖尿病慢性合併症予防目的にてこれらの薬は用いられている。

特にインスリン分泌が残存している2型糖尿病のインスリン非依存状態において有効である。

2型であっても、重篤な感染症の様にインスリン需要の多いとき、清涼飲料水ケトアシドーシス(ペットボトル症候群)の様に分泌を上回るブドウ糖摂取があるとき、周術期や妊娠などはインスリン治療が必要である。

BG薬やαGI薬による境界型糖尿病の糖尿病型への進展予防効果が報告されている。

日本では2009年10月にαGI薬のひとつ、ベイスンが、糖尿病発症予防の保険適応を取得している。




●インスリン分泌促進薬、SU薬とその関連薬

抗生物質の開発中、副作用の低血糖が起きて、薬効が発見された。

1950年代から使用されている。


開発された順に第一世代、第二世代、第三世代と分類される。

第一世代にはトルブタミドなど薬理学的には重要な薬物も含まれているが、近年新規に処方される薬は殆ど第二世代と第三世代なのでそれらを表にまとめた。



作用機序としては膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体のSUR1サブユニットに結合しATP依存性Kチャネルを抑制することによってインスリン分泌を促進させる。

SUは経口投与可能であり、肝臓で代謝される。

おもな副作用はインスリン過剰分泌による低血糖である。

したがって交感神経機能が障害されている患者、意識障害がある患者、低血糖を認識できない高齢者、低血糖に対して適切に対応できない患者は慎重投与する必要がある。

また、グリベンクラミド及びグリメピリドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。

したがって、腎機能低下が認められた場合、代謝物の活性が低いグリクラシドやミチグリニドカルシウム水和物、超持続型以外のインスリンの自己注射への変更を考慮していく必要がある。



SU薬は基本的にはインスリン基礎分泌を促進する薬であるため食前に低血糖を起こしやすく、インスリン追加分泌を促進しないため食後高血糖のコントロールが困難になりやすい。

このためHbA1cといった平均値のみで効果判定を行うとコントロール良好であったにも関わらず心筋梗塞といった大血管障害が起こる可能性がある。

インスリン分泌を高めることは同化反応を亢進させ、体重増加を起こしインスリン抵抗性を悪化させることもある。

これも空腹時低血糖により過食となり食事療法が乱れた場合との区別が難しい。



第三世代のアマリールは従来のSU薬が持つインスリン分泌作用のほかインスリン抵抗性改善作用があると考えられており、副作用による体重増加が少ない。

そのため、空腹時低血糖による食事療法の乱れなども発見しやすく好まれる傾向がある。



2008年現在SU薬は軽症糖尿病の場合はあまり用いられなくなっている。

重症糖尿病の場合は高血糖の持続がβ細胞の破壊という糖毒性を起こし、またインスリン抵抗性の悪化よりSU薬の効果がなくなる二次無効という現象が知られている。

日本の場合、緩徐進行1型糖尿病 (slowly progressive IDDM) が多いため、抗GAD抗体測定といった精査が必要だが、2型糖尿病で二次無効ならば多剤併用療法を考慮する。

空腹時低血糖を起こしやすいため、そのような時間帯に悪心、強い空腹感、倦怠感、発汗、震えを感じたら食事療法関係なく、糖分の補給が必要であることの説明が必要である。

αGI併用時はブドウ糖を補給しなければ低血糖の治療にならないことに注意が必要である。

空腹時低血糖は意識障害を招くだけでなく、虚血性心疾患や網膜症を増悪させる可能性がある。

かつての大規模比較試験UGDPではSU薬と虚血性心疾患の危険についての指摘があった。

1976年、米国でSU薬のひとつであるトルブタミド(ジアベン)が心血管疾患による死亡率を増大すると報告された。

この研究に対して批判も多かったが、その後クロルプロパミド(ダイアビニーズ)、グリベンクラミドなどをもちいたいくつかの研究でその結果が確認されている。

SU薬が、膵β細胞だけでなく心臓の動脈(冠動脈)にも作用し、心筋梗塞などの経過に悪影響を与えることが原因とする説がある。

この考えにもとづくと、グリメピリドやグリニド系の薬剤は心臓に作用しにくいことがわかっているので、これらはこの観点からは安全な薬剤と考えることもできる。

あまり知られていないが、UKPDS34ではメトホルミンとSU薬を併用することによって心血管イベントのリスクが増加するという指摘がある。

大血管障害は食後血糖値が増加するといった血糖値の大きな振れが影響しているという説もあり、決着はついておらず次の大規模比較試験の報告によって解釈は変わりうることに注意が必要である。

糖尿病患者が心筋梗塞といった大血管障害を起こした場合、その原因が原疾患のコントロールの悪さによるものか、薬の副作用によるかは厳密には区別ができず、少なくとも医療過誤ではない。

ガイドライン上も積極的に血糖値をコントロールすることが合併症の予防には効果があるとされている。




●速効型インスリン分泌促進薬、フェニルアラニン誘導体 (グリニド系)

フェニルアラニン誘導体 (グリニド系) はSU構造は持たないもののSU薬と同様膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体(SUR1)に作用し、インスリン分泌を促進させる。

食後は吸収が悪くなるので食直前に内服する。

5-15分で薬効を来たし数時間で作用消失する。

この早く効いて、早く効果がなくなるという点がSU薬と大きく異なるところである。

食後血糖降下薬ともいわれ、SU薬がインスリン基礎分泌の促進、グリニド系がインスリン追加分泌の促進と考えられている。

インスリン療法の超速効型インスリンと中間型インスリンの対応に似ているが、SU薬とグリニド系の併用は保険診療上認められていない。

なお、ナテグリニドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。



●ブドウ糖吸収阻害薬、αグルコシダーゼ阻害剤 (αGI薬)

アルファ・グルコシダーゼ阻害薬 (αGI薬) は食物性糖質の1000倍も親和性の強い糖質類似物質(アナログ)である。

糖質が吸収されるためには澱粉のような多糖類から消化酵素の作用を得て二糖類(麦芽糖や蔗糖)、単糖類(ブドウ糖や果糖)に分解される必要がある。

その酵素、α-グルコシダーゼを阻害し、消化吸収を緩徐にすることで、血糖の上昇をおさえるので、食後過血糖改善薬ともいわれる。

これらの薬物は血糖値の食後のピークを減少させ、食事とともに摂取すると有効であるが食事以外の高血糖の治療には有効ではない。

鼓腸、膨満感、腹部不快感、下痢などの副作用がよく報告される。

これらの原因は消化されずに腸管にのこった糖類が醗酵し発生するガスによるものである。


αGIの継続的な使用によってこれらの副作用は軽減していく傾向がある。

しかし炎症性腸疾患の患者では禁忌である。腸閉塞様症状に至る場合もあり糖尿病性神経障害で消化管蠕動障害がある場合は留意する。

体質的に、肝障害を来す例があるので肝トランスアミナーゼの定期的な観察を行う。

肝障害は薬物の中止とともに可逆的に改善する。

αGIに体重増加作用はないため、食事療法の妨げにならない。

少量から開始し、体を慣らしていくことで、消化器症状によるQOL低下を防止できる。

αGI薬の使用中に低血糖が発現したときは、澱粉や蔗糖では血糖上昇に時間が掛かるのでブドウ糖や清涼飲料水に砂糖の代用に使われているブドウ糖果糖液糖を低血糖の処置に用いる。




●インスリン抵抗性改善薬、ビグアナイド系 (BG薬)

肝臓に作用して糖新生を抑え,筋肉での糖の取り込みを促進、さらに腸管でのブドウ糖吸収を抑制すると考えられている。

詳細な作用機序は不明であるが、分子標的はAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPPK)と考えられている。

インスリン抵抗性改善薬であるので、体重は不変から減少傾向となり、食事療法の妨げにならない。

かつて副作用である乳酸アシドーシス(乳酸ピルビン酸が蓄積しやすくなるため)に対する懸念からあまり用いられることはなかった。

しかし、実際は乳酸アシドーシスの頻度は低いことが英国でのUKPDSでの再評価によって判明した。

乳酸アシドーシスを起こしやすい病態、すなわち、肝障害、腎障害、心障害の既往がある患者には使用をさける。



塩酸メトホルミンが主流である。

塩酸ブホルミンは塩酸メトホルミンに比べて薬効が低く、乳酸アシドーシスを起こしやすいといわれている。

2008年現在、インスリン抵抗性のある患者に広く使われるようになりTZDとの合剤も海外では販売されている。

その他の問題点は軽度の胃腸障害であるが、これは一時的なもので少量から開始し、ゆっくりと漸増すれば軽減できる。

発熱時、下痢など脱水のおそれがあるときは休薬する。ヨード造影剤使用の際は2日前から投与を中止する。




●インスリン抵抗性改善薬、チアゾリジン系 (TZD薬)

ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ (PPAR‐γ) 作働薬やインスリン抵抗性改善薬とも呼ばれる。

核内受容体のひとつであるPPAR-γに結合し、インスリンの抵抗性を悪化させる様々な因子の転写調節をする。

主として末梢組織のインスリン抵抗性改善にあたる。有効性及び安全性に性差を認め、女性で浮腫を来し易い一方で、小用量で血糖降下作用を見る事が多い。

脂肪細胞に作用しブドウ糖の取り込みを増やす事で血糖が低下する。

その代わり肥満を助長しやすくなる。塩酸ピオグリタゾン(商品名:アクトス)だけが現在、国内で上市されている。

最初に商品化されたトログリタゾン(商品名:ノスカール)は肝障害の死亡例が相次ぎ、その原因の一つとして肝臓での薬の代謝に関わるグルタチオン抱合酵素GSTT1とGSTM1の変異が重なると特に副作用の発症率が高い事が示された。


類薬ではトログリタゾン程の肝障害は報告されていないが留意して使用するのが望まれる。


副作用として浮腫や貧血を合併することがあるが、腎でのインスリン感受性亢進のため、Naの再吸収を促進するためだといわれている。

脂肪細胞を分化誘導する一方で骨芽細胞の減少により骨折のリスクが増加するのではないかと云われている。

副作用に浮腫があるために心不全の既往がある患者には禁忌となる。

浮腫が出現しなくとも効果が出ると体重が増加する傾向があるため、食事療法のコントロールに気をつける必要がある。

大血管障害の既往を有する2型糖尿病患者に対して、心血管イベントの発症の抑制、およびインスリン治療の導入を遅らせるという欧州での成績がある。




●ジペプチジルペプチターゼ(DPP)IV阻害薬

消化管ホルモンでグルコース依存性にインスリン分泌を促すインクレチンの分解酵素のDPP-IVを阻害する事で、インクレチンの血中濃度を上昇させる。

その結果インスリン分泌が促進される。

GLP-1には胃排泄能低下作用があり血糖上昇が穏やかになり、インスリンを産生するランゲルハンス島β細胞の増殖を促すのでは無いかと期待されている。

低血糖の副作用が少ない。


▼シタグリプチンsitagliptin (MK-0431/ONO-5435) 米メルク社が開発。

腎排泄性。上気道感染症・尿路感染症の副作用が3%に見られたが、膵疲弊の軽減の結果かHOMA-βやプロインスリン/インスリン比の改善をもたらした。

151名の日本人患者による実薬偽薬間検討でもHbA1c 1.05%の低下をもたらした。

2007年、アメリカで販売を承認されている。

2009年12月11日、日本で上市された。(小野薬品工業からグラクティブとして、MSD株式会社からジャヌビアとして)



▼ビルダグリプチンvildagliptin (LFA237, Galvus)

メトフォルミンに比べて消化器症状が低く( m 43.7% vs v 21.8%)、ロシグリタゾンでは1.6kgの体重増加があったのに対してビルダグリプチンは1kg以上の体重減少があったとしている。

スイスノバルティス社から「エクアR」として発売された。




▼アログリプチン (SYR-322) 2型糖尿病治療薬としての第3相臨床試験において、1日1回の経口投与で、単独療法および2型糖尿病の主な治療剤であるメトホルミン製剤、チアゾリジン系製剤、インスリン製剤やスルフォニル尿素剤(SU剤)との併用療法において、プラセボと比較し、統計学的に有意差をもってHbA1cを低下させた。

武田薬品工業。



●開発中の糖尿病の薬


★ジペプチジルペプチターゼ(DPP)IV阻害薬

SK-0403 三和化学研究所

BI-1356 ベーリンガーインゲルハイム

ABT-279 アボット など



★SGLT阻害薬

Na + -ブドウ糖共輸送体(SGLT: sodium-dependent glucose transporter 2)は尿細管内腔にあり糸球体で、ろ過された原尿には血漿と同じ濃度含まれているブドウ糖をナトリウムと共に尿細管細胞内に再吸収する。

この蛋白のお陰で尿糖閾値までブドウ糖が外に失われずに済む。

尿糖を増やせば血糖がへる。

血糖が正常化すれば、膵でのインスリン分泌の負担が軽くなり、糖毒性が取れるのではないかというコンセプトで、SGLT阻害剤の開発が進められている。

同じ蛋白は小腸上皮粘膜細胞にあり 腸管からの糖の吸収に携わっている。

田辺製薬 T-1095

サノフィ・アベンティス AVE-2268

キッセイ薬品工業 KGT-1251

アステラス製薬 YM543などがある。



★フルクトース1, 6ビスホスファターゼ (FBPase: Fructose 1,6-bisphosphatase) 阻害剤

糖新生を妨げる事で血糖の上昇を抑えようと言う機序の薬品である。

メタベイシス社と第一三共が CS-917の開発を進めている。


★Aktリン酸化薬

インスリン受容体から細胞内に情報を伝達する経路にあるAkt(セリンスレオニンキナーゼ)のリン酸化により、インスリンに類似した効果が期待出来る。


★コレセベラム (colesevelam HCl)

脂質降下薬のひとつ、胆汁酸と結合しコレステロールの腸肝循環を妨げ排泄させるが、pleiotropic effectとして、インスリン併用2型糖尿病患者のHbA1cが0.5%程度下がり米FDAに承認申請。
糖尿病の診断と注意点
●ヘモグロビンA1cの国際標準化について

2012年4月1日より、ヘモグロビンA1cの値は国際標準化され、NGSP値(National Glycohemoglobin Standardization Program:国際標準値)が採用されました。
 
しばらくは、これまでのJDS値(Japan Diabetes Society:日本糖尿病学会値)も併記されますが、最終的にはNGSP値だけの表示となります。




●糖尿病の診断

日本では、日本糖尿病学会が2010年7月より新しい診断基準を施行した。(従来の診断基準は1999年に施行されたもの)

新基準では、血糖値だけでなくヘモグロビンA1c(HbA1c)の基準も設けられた。

血糖値(空腹時血糖値、75gOGTT2時間後血糖値、随時血糖値)及びHbA1cの検査結果で判定を行う。



正常型・・・110未満(空腹時血糖(mg/dl))、140未満(2時間後血糖(mg/dl))


境界型・・・126未満(空腹時血糖(mg/dl))、200未満(2時間後血糖(mg/dl))


糖尿病型・・・126以上(空腹時血糖(mg/dl))、200以上(2時間後血糖(mg/dl))




●血糖値関連の検査

▼血糖値

血糖値は、食事を食べたり運動をしたりすることで容易に変動する。

朝起きてから食事を取らずに測定した空腹時血糖と、どんなとき測ってもよい随時血糖が評価の対象である。

常用負荷血糖(普段の食事をして測定した血糖)では、食事開始(はしをつけて)から1時間後のpostprandial glycemia 1hr(PPG1hr)がピークとなることが多いとされ、有望視されている。


▼ヘモグロビンA1c(HbA1c

過去1-2ヶ月の血糖値の平均値を表すとされる。

HbA1c 6.5%未満をコントロール良好とする。

食生活による変動が激しいことも知られており、最近過食気味といったエピソードがあるだけで糖尿病かの診断では偽陽性となっていまうことがある。

肝硬変、溶血の患者では低めに出ることが知られており、その場合はグルコアルブミンを代用することがある。

HbA1cは5.8%以下で正常、6.5%以上で糖尿病と言われているが、OGTTに基づく診断では正常型、境界型、糖尿病型の各型とも広範囲に分布するためoverlapすることが多く、境界型糖尿病の診断や糖尿病の否定などには用いることができないといわれている。

5.8%より大きい値が出たら境界型糖尿病なども疑い精査する必要がある。




●糖尿病合併症

●糖尿病は合併症の病気といわれているように、糖尿病コントロールの主目的は合併症発症予防と進展の抑制となります。

糖尿病の合併症とは、一般的に急性合併症と慢性合併症に大別されます。

●急性合併症の代表例としては、糖尿病性昏睡と急性感染症があげられますが、これらは治療の進歩(特にインスリン療法)により、発症とその予後(経過)は著しく改善されています。

しかし、未だに克服されたとは言えず、意識障害を来たし、多くの臓器障害まで併発する可能性を含んでおり、生命予後に関わってくる重篤な病態と考えるべきです。


●通常、糖尿病の合併症という場合は、慢性合併症のことを指します。

慢性合併症は、成因やその病態から血管障害合併症とその他の合併症に分けられます。

さらに血管障害は、細小血管障害と大血管障害(動脈硬化性血管障害)とに分けられます。

細小血管障害は、細小血管(毛細血管)の病変から始まる病態で、糖尿病に特徴的な合併症です。

代表的な例は、網膜症、腎症、神経障害で、この三者を糖尿病性三大合併症といいます。

これに対して大血管症は、動脈硬化に由来する合併症で、糖尿病に特異的とはいえず、糖尿病自体が危険因子となり、他の危険因子(高血圧、高脂血症、肥満、喫煙など)と絡み合って、糖尿病の罹病経過とは無関係に発症してきます。



●糖尿病性網膜症とは?

網膜には栄養を補給する多くの血管が走行しています。

高血糖状態が長く続くと、この血管がもろくなったり、一部が膨らみコブをつくり(動脈瘤)出血します。

また、小さな血管が血栓でつまったり、つまって血流が途絶えた部位に血流を補充するために新しい血管(新生血管)ができてきたりします。

この新生血管は、急ごしらえのため非常に脆く、ちょっとしたことで出血を起こす原因ともなります。

これらが進行していくと、失明に繋がってくるのです。


●糖尿病の慢性合併症のうち、目に起こるものの中で最も重要なものが糖尿病性網膜症です。

何故なら一度進展してしまうと治りにくく、しばしば失明の原因となるからです。

現在日本において、年間3000人の人が糖尿病が原因で失明しており、中途失明の原因の第一位となっています。



●糖尿病性腎症

腎臓は、身体の中でいらなくなった老廃物を含む血液を濾過して、老廃物を尿として体外に排出するとともに、きれいになった血液を体内に戻すという極めて重要な働きをしています。

この血液を濾過する役割をしていのが、腎臓の糸球体と呼ばれる場所です。

この糸球体は毛細血管の塊でできており、高血糖が長期間続きますと、網膜と同じく血管障害や膜に変化が起きてきて濾過機構が破綻してしまいます。

この状態が糖尿病性腎症といわれるものです。

糸球体が担っている濾過機能は、正常の状態においては身体に必要なタンパク質などが外に漏れでないように調節されています。

しかし腎症に陥った状況下では、大事なタンパク質などが尿として身体の外に漏れ出てしまうのです。

これが蛋白尿で、蛋白尿が多量になりますと血液中の蛋白濃度が下がり、むくみ(浮腫)や血圧上昇などを招き、老廃物の排出低下も相俟って腎不全や尿毒症に移行してしまうのです。



●糖尿病性神経障害

糖尿病の三大合併症のうち、最も早期に出現してくるのが、糖尿病性神経障害です。

神経障害は、網膜症や腎症と同様に高血糖が持続することにより神経が変性したり、神経を栄養する毛細血管の障害で血流が低下することなどで生じてきます。

糖尿病神経障害は、大きく末梢神経障害と自律神経障害に分けられます。


★末梢神経障害とは?

末梢神経には、痛みや温度を感ずる感覚神経と、手や足などを動かす運動神経があります。

高血糖が持続すると、まず長い神経の末梢の感覚神経から障害が現れてきます。

すなわち、手や足の先から、そして左右対称に出現してくるのが特徴です。

例えば、手や足の指先がじんじんしたり、しびれや痛みを感じたり、虫が這っているような知覚異常としてみられます。

さらに進行すると運動神経にも障害が現れ、筋肉に力が入りにくくなったり、顔面神経麻痺や外眼筋(目を動かす神経の動眼神経や滑車神経)麻痺を生じて物が二重に見えたりするようになります。

これら末梢神経障害のために、怪我をしたり炬燵などで火傷をしても気付くのが遅れ、そこが化膿して壊疽を起こしてしまう重大な合併症を招くこともあります。



★自律神経障害とは?

自律神経は、全ての内臓(心臓、肺、胃、腸、膀胱、子宮など)や腺(内分泌腺、汗腺、唾液腺など)、血管などを支配し、自分の意志とは無関係に、生体のホメオスターシスを維持するのに必要な機能を行っています。

すなわち、呼吸、循環、物質代謝、体温調節、消化、分泌、生殖など、無意識に行われている機能を調節しているのです。

したがって、自律神経に障害が生ずると様々な症状が出現する可能性があります。

例えば、胃のもたれ(胃無力症)、便秘や下痢、起立性低血圧による立ちくらみ、排尿困難やインポテンスなどの症状が現れます。

また、低血糖が起こっても動悸や発汗などの警告症状が出現せず重症化する可能性もあり、心筋梗塞が起こっても痛みに気付かず(無痛性心筋梗塞)重篤化を招くこともあり注意を要します。



●インスリン

インスリン(インシュリン、insulin)は、膵臓に存在するランゲルハンス島(膵島)のβ細胞から分泌されるペプチドホルモンの一種。

名前はラテン語の insula (島)に由来する。

21アミノ酸残基のA鎖と、30アミノ酸残基のB鎖が2つのジスルフィド結合を介してつながったもの。

C-ペプチドは、インスリン生成の際、プロインスリンから切り放された部分を指す。



生理作用としては、主として血糖を抑制する作用を有する。

骨格筋におけるグルコース、アミノ酸、カリウムの取り込み促進とタンパク質合成の促進、肝臓における糖新生の抑制、グリコーゲンの合成促進・分解抑制、脂肪組織における糖の取り込みと利用促進、脂肪の合成促進・分解抑制などの作用により血糖を抑制し、グリコーゲンや脂肪などの各種貯蔵物質の新生を促進する。

腎尿細管におけるNa再吸収促進作用もある。

炭水化物を摂取すると小腸でグルコースに分解され、大量のグルコースが体内に吸収される。

体内でのグルコースは、エネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さのため生体内のタンパク質と反応して生体に有害な作用(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害)をもたらすため、インスリンの分泌によりその濃度(血糖)が常に一定範囲に保たれている。

インスリンは血糖値の恒常性維持に重要なホルモンである。

血糖値を低下させるため、糖尿病の治療にも用いられている。

逆にインスリンの分泌は血糖値の上昇に依存する。

従前は「インシュリン」という表記が医学や生物学などの専門分野でも正式なものとして採用されていたが、2006年現在はこれらの専門分野においては「インスリン」という表記が用いられている。一般にはインスリンとインシュリンの両方の表記がともに頻用されている。




●インスリンの歴史



1869年にドイツベルリンの医学生パウル・ランゲルハンス (Paul Langerhans) は、顕微鏡で見た膵臓の構造を研究していた。

後にランゲルハンス島として知られる「小さな枠の集合体」は当時まだ知られていなかったが、エドワール・ラゲス (Edouard Laguesse) は、それらが消化に関わる大きな役割を果たすものであり得ると主張した。

1889年、リトアニア出身のドイツの内科医オスカル・ミンコフスキ (Oskar Minkowski) とヨーゼフ・フォン・メーリング (Joseph von Mehring) は健康な犬の膵臓を取り除く研究を行った。

実験が始まって数日後、ミンコフスキーはハエがいつもこの犬の尿に群がっていることに気付いた。

尿を調べてみると、糖分が含まれており、ここで初めて膵臓と糖尿病との関係が実証された。

1901年、アメリカの病理学者ユージン・オピー(Eugene Opie)によりランゲルハンス島と糖尿病との関連が明らかにされたとき、この研究は新たな段階を迎えた。

つまり、糖尿病はランゲルハンス島の部分的あるいは全体的な破壊によって引き起こされるということがわかったのである。

しかしながら、ランゲルハンス島が果たす特定の役割については、ここではまだよくわかっていなかった。

それから20年、これに連なる数々の研究が科学者の間で行われた。

1921年には、カナダの整形外科医フレデリック・バンティング(Frederick Banting)と医学生チャールズ・ベスト(Charles Best)が研究室でインスリンの抽出に成功した。

1922年1月11日、当時14歳であった1型糖尿病患者に世界で初めてインスリンの投与が行われたが、これは、精製方法が未熟であったこともあり、患者にひどいアレルギー反応がでたため中断された。

バートラム・コリップは、それから12日間投与量などの改善に日夜努力し、23日に再び投与が行われた。

今度は副作用を引き起こすこともなく、糖尿病の症状を取り除くことにも成功した。

しかしながら、バンティングとベストはコリップを一種の闖入者と見なしたようで不和を生じたため、その後すぐにコリップは去って行った。

1922年の春が過ぎ、ベストは大量の需要にも応えられるように抽出技術を工夫したが、精製は未熟であった。

1921年の発表の直後、イーライリリー社から、彼らは支援の申し出を受けており、4月にこの申し出を受けた。

11月にリリー社は技術の革新に成功し、非常に純粋なインスリンの生産に成功した。

このインスリンは、アイレチンという名ですぐ市場に出された。




●インスリン製剤の種類

1921年にインスリンの分離に成功。

1型糖尿病における薬物療法として、現在のところ唯一の治療法である。

インスリンは蛋白質であるため、消化管内で速やかに分解されるため経口投与不可能である。

そのため皮下注射によって投与することが多い。

インスリン製剤は、作用発現時間、作用持続時間、原料となる動物種(牛、豚、人)によって分類されている。

組み換えDNA技術によってヒト型インスリンが開発されてからはヒト型を用いるのが一般的である。

ヒト型インスリン は大腸菌や酵母菌にヒトインスリン遺伝子を導入しインスリンを生産している。



●作用時間によるインスリン製剤の分類

インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間によって超速効型、速効型、中間型、混合型、持効型溶解溶解に分類される。

持続型 (ultralente, U)というものも存在するが、近年ではあまり用いられない。

インスリン製剤はカートリッジ製剤、キット製剤、バイアル製剤がある。

 
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